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作品ID:603

こちらの作品は、「感想希望」で、ジャンルは「一般小説」です。

文字数約7788文字 読了時間約4分 原稿用紙約10枚


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Apologetic Life

作品紹介

食べる。食べられる。
生きる。死ぬ。
葬る。葬られる。
誰もがそう。あなたもそう。

自分もそうありたいと願うものたちと、命の話。

掌編集です。


『死んだ魚の夢』
 
 魚は人間に釣られ、今まさに生きたまま捌かれようとしていた。
 小波に揺れる貧相な船の上、魚は乾いた目玉で男を眺めていた。大木のような両腕に、きれいに洗われたまな板。そして、鋭利で銘のついた鮮魚を捌くための包丁。
 魚は穏やかな表情を浮かべていた。もう、これから起きることから逃れる術はない。魚は、すべてを諦めかけていた。そのとき、海に残してきた妻と、まだ生まれてもいない子供たちを思った。
「ああ、こんなことになってしまった……。すまない、妻よ。子育て、僕も手伝いたかったなあ……」
 魚はうなだれた。
「この男の手さえ外れれば、滑った反動を利用して船の外に飛び出せる。きっと僕が外に出られれば男はもう追おうとは思わないだろう。そうなれば、逃げ切ったのも同然なのに……」
 そう思った直後、男の包丁が煌めき、魚の体は硬直した。刃に貫かれる前に、魚は死の恐怖から意識を放棄した。
 次の瞬間、魚が目を覚ましたのは腹をチクリと刺される痛みによってだった。体が宙を踊ると、魚は液体の冷たさを全身で感じた。魚は自分が海に入ったのだと気付いた。
必死にヒレを動かすと、ぐんぐん前へと進んだ。はらはらと、自分の鱗が剥がれていった。
 突然、急流が身を揺さぶった。水面に銛が突き刺さり鱗の一部を削った。男が放ったものだった。
 酸素が切れかけるまで泳ぎ続けた魚は、喘ぎながらも自分が安全地帯に逃げ切れたことを悟った。男が銛を装填し直しているうちに、運よく逃げ延びたのだ。
 昼の太陽の下、サンゴの森の中、一本の道を見つけた。この道は向かうべき先に続いているに違いない。魚は、ボロ布の様なヒレをゆっくりとたゆたわせながら、朦朧とする意識のなか、進んでいった。ふらふらになり、何度も岩場にぶつかりながらも魚は諦めなかった。
 そして、気が付くと魚は、月明かりに照らされた自分の巣穴の前にいた。そこでようやく一日中泳ぎ続けていたのだと知った。海藻の門扉を押して、玄関をくぐると向こうにはメスの魚の尾ヒレ。妻だった。生まれて間もない子供たちを抱いていた。
 妻は喜びと、涙の両方を溢れさせた。魚は駆け寄ってくる妻を抱こうとヒレを伸ばした。
「ああ、……君は、君はなんて、美しいんだ……」
 生きて再び会うことができた喜びをかみしめながら、妻を迎えようとした。
 次の瞬間、魚は腹部に臓器がえぐれるほどの激痛が走った。あと少しで、愛しい妻に触れられるのに。
 何が起きたのか魚が理解する前に、月明かりも、自宅も、妻も跡形もなく消え去って、そこで、日の光が満ちてきた。
 包丁が差し込まれる激痛で息絶えた魚は、内臓を掻き出されて、見事な三枚おろしにされていた。
 すべては、魚がおろされる前に見た幻だった。


『双眼鏡』
 
 俺たち昆虫の目玉は、双眼鏡のように拡大することができない。見たいものは無数に広がって、同じものがたくさんに見える。
 今日も獲物を探しに花をよじ登る。獲物の蝶は美しいだけで、身を守る術を知らない。それに蝶の美しさを保つ翅は、中身がないから食べようとは思わない。何もかもが俺たちとは別ものだ。とても同じ昆虫とは思えない。
 俺の両腕の鎌は、肉を掴んで食うための腕だ。何かを引き裂いて殺すためにある。誰かを抱きしめるためにあるのではない。俺は根っからの殺す側だ。
 俺にも妻はいたが、子供をつくれば、はい終わりの、それだけの関係だった。相手は卵を産む前にすぐ俺を食い殺そうとした。どこかの魚のように、死ぬ間際まで相手のことを思うのなんて、食い意地の張ったやつのすることだ。きっと、俺もあの時逃げ出さなければ、出産のための養分として食われていただろう。
 どうせ、魚の片割れのほうも、釣り上げられて主人と同じ末路を迎えたのだ。今を生きている俺のほうがまだましだ。俺は殺す側だから、殺されるやつの気持ちは分からない。おおかた、魚の嫁も案外夫の死よりも、わが身が心配だったかもしれない。
 だから死ぬ時くらい、見たいものを眺めて死にたい。美しいもの、儚いもの、珍しいもの、大切なもの。そんなものが、俺のそばにあるとは思えない。だから俺は絶対に野垂れ死にたくない。俺は強欲なやつだ。つくづくそう思う。
 俺たちの目玉は拡大が効かない。その代わりに、見たいものは山程見ることができる。
 俺の目の前を蝶が横切った。あいつは美しく、儚い。でも、珍しくも何ともない。そして、大切なものでもない。ただの獲物だ。それがたくさん映っている。
 俺は、肉を切り裂く両腕を構えた。無防備な翅から狙おうか。それとも、もっと美味そうなやつを厳選しようか。そう思案している間、俺は迫る空からの気配に気づかなかった。
 何か巨大なものが、俺の体を思い切りくわええ込んだ。
 翅を出していないのに、恐ろしい力で引っ張り上げられる。 
 体が宙に浮いた。粘液が体の自由を奪う。肉壁の圧迫により気門が塞がれた。呼吸ができない。手足が折れ曲がる。
 俺が、喉につかえている。
 俺を飲み込もうと何かが無理やり嚥下を繰り返していることに、その時ようやく気がついた。
 

『炭酸』

 哺乳類は、動物たちの先駆者となるために神様が創った種族だという。これは僕の仲間の弁だが、ひどいと思わないかい。なんという自分勝手。なんという自己陶酔。まるで君と大差ない思考回路だね。まったく。
 いいかい? 僕はハツカネズミだ。君らに飼われて殺されるためだけに生き、実験成果と研究材料のために死ぬ、この世で二番目に哀れな動物だよ。一番目はもちろん君らだ。二十日で大人になるのは手早くそういうものに使えるから楽なんだそうだ。僕らを何だと思っているのか問いただしたいよ。
 でも、僕らは実験のために生み出され、それが終われば生きていようと無かろうと首を折られる運命だ。だから、問いただすとか、そんなことをしたって無駄なのは知っている。
 逆に言えば、その実験がなければ僕らはこの世界に生れ落ちることもなかった。そうは考えるけれど、僕も含め同胞たちはみんな太陽というのを見ないで死んでいった。僕もきっとそうなるだろう。命の価値はたやすく変動するものだからね。
 じゃあここで問題だ。
 ヒトとネズミの魂。どちらが高価でしょう?
 ふん。人間の君には本当につまらない問題だろう? 
 僕らの命なんて、君がうまそうに飲む「炭酸」の泡みたいだ。シュワシュワと消えて行って、後にはあの甘ったるそうな黒い汁だけが残る。僕らの死骸も、人間に嫌がられる。燃やされる。灰になってもロクな扱いはされない。問題の答えなど聞く必要もないだろう。
 だからね、僕らハツカネズミは、すべて時間を消費しながら生きている。せこせこ、てちてち、僕らは生きている。生命は消費されていくものだ。
 虫は僕等よりも案外消費は早いのかもね。君らの戯れで僕らみたいに簡単に死んでいくから。それに鳥にも食べられる。僕も、ここにいなければ梟に食べられたのかもしれない。あ、魚は君らのエサ回りになっているみたいだから、僕らよりも早いかな。でも君らの肉として循環するのは羨ましい。尊いヒトの、命の一部だろう。
 他の哺乳類の肉は美味そうに君は食べるのに、僕らの肉は君らの口には合わないらしいね。共食いも、実験動物には許されないことだから。仲間の肉を食べて何が悪い。種を減らしているわけでもないのに。いろんな種を食らう君らとは違う。
 自分で僕らを弄っておいて、後始末は首を折ることだけ。あとはシャベルでまとめて御焚き上げ。
 何のために生きているのかなんて、考えるだけ時間の無駄だ。アイデンティティーで悩める動物なんて君らぐらいのもんさ。
 自殺もそうだ。本当に自分勝手だ。
 さて、時間切れだ。どうせ炭酸が抜ければ、もう要らなくなるんだろう? 
 僕も、君らに捨てられるのなら大喜びだよ。
 尊いのはヒトの命じゃない。自分の命さ。
 そこをはき違えないよう生きてくれよ。


『ピーター』

「ピーター、いつもありがとうねえ」
 主人は、私をピーターと名付けた。それははるか十数年も過去のことだ。私は幼いときに、名をつけてくれた彼女に一生涯、忠を尽くすと誓った。
 私の知る言葉で、「忠を尽くす」、という言葉がある。それは、自分の主人や上官、任務に対して、常に真摯な気持ちで向き合おうとする姿勢を示した言葉だそうだ。
 主人に、忠を尽くす。
 主人の心に、忠を尽くす。
 主人のご家族に、忠を尽くす。
 主人に尽くす自分に、忠を尽くす。
 私は老犬だ。もうすぐ私の生は尽きる。それを主人に悟られてはならない。だから、長きに住み慣れた我が家から遠く離れた場所で、私は果てようと思う。だから、私がいなくなったとき、主人が心配しないよう私の首輪をここに置いておくことにする。猫の虎二、首輪の取り外し、協力感謝する。
 私が死せるとき、主人に幸が訪れるように。尊い我が主人の生が、どこまでも永く、健やかに続くように。
 主人のことを頼めるのはお前しかいない。任せてもいいだろうか。ふむ。……そうか。
 ……お前のような友に、また巡り会いたいと願わずにはいられまい。さらば、虎二。
 ふむ。
 まことに、よい生であった。


   『砂』

 野良猫の虎二様は、友人のピーターをいつまでも見送りましたってか。ヒトに尽くす生き様なんざ、実験動物のネズミと同意見だな。人間は気に食わねえ奴ばかりだ。
 それでもピーターのやつは大した奴だ。俺も認めざるおえないほどの奴は、後にも先にもあいつしかいねえな。
 あいつの話はひとまず置いて、まずは魚屋からうまいところかすめ取った魚を食いたい。
 おっ! この魚、腹に山ほどの子供を抱えていやがる。ラッキーだぜ。産まずに釣り上げられるとは、実に運がない奴だ。まあ、俺としては、ガキより肉がいいんだがな。
 急がねえと、食い意地の張った鳥どもが狙ってくるとも限らねえ。さっさと食っちまおう。
 どいつもこいつも屑ばっかりだ。俺たちの野良業界も、人間の飲み余した黒い汁ほど甘くはねえ。どこだかのスラムと大差ねえんだよ。生きることに必死なんだ。毎日の生活で、保障されていることは一つもありゃしない。
 恵みの餌も、人間の気まぐれ。恵みの雨も、天の気まぐれ。恵みなんぞにすがらなければ、俺たちは生きていくことすらできやしねえんだからな。
 その点に関しちゃ、ピーターはいい身分だ。昼寝していても飯が来る。だからといって飼い猫になる気はない。野良の誇りってやつだ。
 まあ、そんなもんは人間に媚びているときには捨てたんだがな。
 俺らの毎日は、たくさんの砂粒が降り積もっていくのと同じなんだ。手で跳ね除けられれば崩れちまう。いつの日か、ガラス瓶に詰めて引っくり返されるときを、ずっと待ち続けているんだ。
 ピーターの砂時計は、俺の知らないところでひっくり返った。零れていく砂は、あいつにはガキがいねえからない。俺も、いい女がいねえからな。あいつと同じような末路を辿るハメになるかもしんねえな。
 ……そんときまで、あいつの主人から飯をせびるのも悪くねえかもな。あいつから、主人の事、まかされたからな。
 仕方ねえな。ああ、仕方ねえ。


   『認知症の夫婦』

 私の夫が認知症を患って幾年か経つ。夫は、自分が私の迷惑になりたくないと言って、勝手にホームの手続きをして出ていった。この家には、私と、愛犬のピーターしかいなくなってしまった。
 夫と私で苦心して建てたマイホーム。お互い、争いもしたがこの家から笑顔が絶えることはなかった。ピーターも、若く、力強かった。息子たちは幼く、私たちが愛情をどれほど注いでもそれは枯れることがなかった。
 この家が、こんなにも広く、そして寂しいものであったなどと思いもしなかった。赤と緑。色違いのマグカップ。四つの椅子。しまわれた息子たちの箸と茶碗。
 きっと、ピーターが居てくれなかったら、私は孤独でつぶれてしまうだろう。
 最近、大柄な虎猫が家に来るようになった。近所の魚屋さんを苦しめている悪猫の虎二だ。どうやらピーターに会いに来ているらしい。ピーターにも悪友はいるようだ。そうだ、彼にも餌をあげよう。野良みたいだから、きっと喜ぶはずだ。
 
 しばらくして、ピーターが失踪した。
 飼い始めた時から着けつづけた首輪は器用にも外されて置いてあった。 
 私は、ついにこの家に独りきりになった。どうして、老犬のピーターがいなくなることができたのかは分からない。自分の死期を悟って、飼い主にみつからないようにしたのかもしれない。
 それでも、彼はどこかで生きている。死の瞬間に立ち会わなければ、彼は生きているかもしれないのだから。ピーターは、私に希望を残していった。
 彼の後任は虎二に任されたようだった。ピーターが失踪してから、毎日欠かさず家に来るようになった。ピーターの餌の肉団子はどこの店にも売っていない、私の手製だ。虎二もそれをどこかで知ったのだろう。
 
 孤独を忘れさせてくれる彼は、私の拠り所となった。
 できることなら、私が死ぬまで通ってほしい。でも、それは人間である私のわがままというものだ。人間と動物は同じ時間を共有できない。同じ言葉を話せない。
 それならばせめて、今を大切に生きよう。


『そして誰もいなくなった』

 起き抜けに見る悪夢は、割に合わない。
 柵の向こうに置き忘れた靴。孤独に靴紐が風に揺れている。
「……――、」
 君は、その言葉を僕に告げた。
 微笑みは解けて、プラスチックの鳥は鉄柵の向こう側へと飛び去った。
 飛翔の一瞬を僕は見ている。
 失墜して粉々に砕け散った後、鳥の模型は大輪の花を咲かせた。
 積もり積もった、君が居なくて退屈だとか、君と居ないと寂しいとかは、もう燃えないゴミの日に捨てて、そのまま置き去りにした。
 僕は君のことを忘れようと願う。生きていくのに支障が出るほどの過去は、どうやって捨てていくことができるのだろう。忘れることが許されないのなら、僕は過去を意識しないように生きていこう。
 そうやって、頭のゴミ溜まりに置いておくから、いつまでたっても僕は変わらないのかもしれない。
 大切な人ほど大切にできず、自分の近くにあればあるほどに、いつも両の腕から零れ落ちる。零れる傍から、両の足で踏み潰す。
 手のひらに乗らないものは大きすぎて、とてもじゃないが愛せない。手の指から零れるものは小さすぎて、いちいち記憶などしてはいられない。

***

 言葉では伝えられないことを、言葉でしか伝えられないのなら、「なんでも言い合える仲」になろうとして、私は無駄な足掻きを続けた。
 それから誰にも言えないことばかりが増え続け、頭を抱える姿を君に見られ、
「どうかしたの?」
 と聞かれれば、ほら、また言えないことばかりが増える。たった一言の告げたい言葉。それがこんなにも難しいなんて。
 何度も告げることを躊躇い、君が私から離れていくことに怯えている。
 その繰り返しの最果てが、きっと「今」なのだ。
 君の未来に私がいないことを、私が一番知っている。
私は、私と、私の中で生きている命を。そして、君といる未来のすべて放棄しよう。
 私達は死んだつもりで、日々を生きることにする。
それとも君は、私がこれから先、どうなるのかを知っているの? 
 私に食べさせ続けた君のエゴイズムをどうしようもなく持て余しているうちに、あなたの自我は大きく膨れていくのだろう。

 どこかの誰かが私を嘲笑う声が聞こえる。
 こうして生き恥をさらすから、「そんな君も好き」と言ってほしい。

***
 
 君が抱えているものを、捨てるように僕は言った。
 君は僕との関係が壊れることを恐れているようだった。抱えるものを捨てて生きるほど君は非情ではない。カマキリのような、形だけの交尾。犬と飼い主のような、しみったれた依存。鳥類の狩りのような、無慈悲な捕食。

 人間として生きていく事の全てが自分勝手で、それでいて自ら死を選ぶ。
 僕は自分に楽なように生きたい。
 だから、僕には取りたくもない責任に枷をはめられて生きていくことなどしたくもなかった。
 君の中の命のことを、僕が本当に気づいていないとおもっていたの。
 君は、それでもよかったの。

***

 冷たい場所で、ずっと手を伸ばし続けた。私は、孤独でありながらその実、孤独ではないという目には見えない辛さと一緒に君をいつまでも待ち続けた。
 私は、自分が独りきりになるまで、ずっと君のことを待っていた。
 私は、君とあなたと、共に生きる未来を望んでいた。
 屋上のフェンスの前に立ち、あの錆びた鉄柵を飛び越えた向こうに、出来もしない願いをかける。
 雄大な空の向こう。果てない、遥か彼方の向こう。
 何もなく、誰も居ない。あの空の向こう。
「……いつか私と、もう一度会うことがあったら、離れないように手を握ってくれますか?」
 残滓の様な願いの声は、大気に溶ける前に消えた。

***

「あの時の君は、どこにいったの?」
 その一言だけ、プラスチック製の君が呟いた。
 微笑みは解けて、君は飛んだ。
 人には音がないのなら、どうして君は飛ぶことを選んだのか。
 君の体はバラバラになって、宙に浮いて弾けた。プラスチック製の羽では飛べない。君はアスファルトで砕け、大輪の花を咲かせた。
 僕のリズムは乱れて、君はリズムを刻むのをやめた。
 だから、僕は音になる。
 君が落ちる空の音に。
 君が落ちた地面の音に。
 君が軋む、君自身の音に。

***

 プラスチックの羽根を広げ、小さく呟く。
「僕も君も、あの時からずっと何にも変わらない……」
 みっつ数えて僕も飛んだ。
 感傷に入り込んだ空に溶け出す、全身で感じる浮遊感。
 眼を閉じるだけで世界が消えるのなら、壊れた僕は世界と消える。
 霞に浮ぶ淡い光。二つの母鳥と雛鳥の影。
 掴み取ろうとしても、この手は翼に変わり虚空を掴むだけ。
 今では指も爪もなく、そこには羽毛が生えて、ただ羽ばたくことしかできない。
 僕の体が透き通って空の中でたゆたう。
 風鳴りのする空で、揺さ振る意識を見失う。
 一瞬の暗闇の後、浮遊が止まる時。

 僕は、希うだろう。
 遥かを舞う、あの二羽との再会を。


――そして、誰もいなくなった。

後書き

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作者 灰縞 凪
投稿日:2016/12/21 19:57:06
更新日:2017/01/31 09:41:53
『Apologetic Life』の著作権は、すべて作者 灰縞 凪様に属します。
HP『灰縞 凪 

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