小説を「読む」「書く」「学ぶ」なら

創作は力なり(ロンバルディア大公国)


小説鍛錬室

   小説投稿室へ
運営方針(感想&評価について)

読了ボタンへ
作品紹介へ
感想&批評へ
作者の住民票へ

作品ID:631

こちらの作品は、「お気軽感想希望」で、ジャンルは「一般小説」です。

文字数約9279文字 読了時間約5分 原稿用紙約12枚


読了ボタン

button design:白銀さん Thanks!
※β版(試用版)の機能のため、表示や動作が変更になる場合があります。

あなたの読了ステータス

(読了ボタン正常)一般ユーザと認識
「万能の書」を読み始めました。

読了ステータス(人数)

読了(55)・読中(1)・読止(0)・一般PV数(268)

読了した住民(一般ユーザは含まれません)

灰縞 凪 


小説の属性:一般小説 / 現代ファンタジー / お気軽感想希望 / 初投稿・初心者 / 年齢制限なし /

万能の書

作品紹介

『これは、「この世の全ての魔法が記された『万能の書』を求めて旅する、イド・ジューレンとその相棒プリ・ゴニトスの物語。しかし、受け継がれることはない物語」である。





――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 最愛の弟が亡くなって早数か月。ショックから立ち直れずバーで自棄飲みをしていた私の耳に、ある噂が舞い込んできた。
『この世の全ての魔法が記されている『万能の書』というものがあるらしい』
 その噂は、〈魔法が庶民に普及された時代〉に聞いても、夢のようだった。翌日、街中で聞き込みを行ったところ、『万能の書』は洞窟に眠っているらしいことが分かった。
 自宅に戻り、同棲している相棒のゴニトスに『万能の書』についての話をした。
ゴニトスは青い髪の好青年だ。本の虫で、いつも何かしらの本を持っている。彼は、読んでいた本から視線を上げ、私の顔を見つめた。
「ダメだ、イド。あまりに〈危険〉すぎる」
 イドというのは私の名前だ。イド・ジューレンが私のフルネームである。
「君が興味を持ちそうな本だと思うんだが」
「そうじゃなくてだな……はぁ……わかったよ」
 私の熱い視線に負けたのか、ゴニトスはため息をつきつつも、『万能の書』を探す冒険に賛同してくれた。
「しかし、条件がある。イド、俺も同行させてくれ」
「もちろんそのつもりだったよ!ありがとう!」
 こうして、私とゴニトスの旅は始まった。
 まず初めに、私たちは『万能の書』が一体何処の洞窟に眠っているのかを訊いてみることにした。
 私とゴニトスは手分けして聞き込みをした。1時間もしないうちに、ゴニトスが、「私たちが住んでいる村のはずれに『万能の書』が眠っている」という有力情報を持ってきた。村人の話では、過去に多くの若者が宝を求めてその洞窟に挑んだという。〈よくある話〉だ。
 あっさり見つかったため信用できるか怪しかったが、他に情報も出なかったので、早速行ってみることにした。

*      *     *

 洞窟の入り口の前には大男が1人立っていた。
 最初はよく出来たマネキンかと思ったが、風が靡くとともに瞼が少し動いたので、生きているのが分かった。私は話しかけてみることにした。
「あの、すいません。『万能の書』って――」
 ザクッ。私が男に近づこうとすると、突如石が落ちてきて、地面に突き刺さった。大きさは大したことはないが、鋭く尖っていた。この男の魔法だろうか。
 私が魔法の槌を作って戦闘態勢に入ると、男はやおら動き始めた。そして、ぼそぼそと話し始めた。
「我が名はストー。洞窟を守る者。ある人物の命を受けた。「勇者」、お前には死んでもらう」
「勇者」。どうやら、彼に命令した「ある人物」は、私を「勇者」だと考えているらしい。
 男は空中に先ほどと同じ石を、相棒と私の頭上に、雨のように展開した。私はその石を、槌を振り回しながら砕いた。魔法が使えない相棒は、持っていた本を頭の上にやって、その場でしゃがみこんでやりすごした。そしてそのまま、本で石の雨を防ぎながら、岩陰へと隠れた。
 今度はこちらの攻撃だ。石器の雨が止んだ瞬間、私はストーのすぐ近くまで飛び込んだ。そして、ガツンと一発、槌でフルスイングをかました。
ストーは、予期していたように、その一撃を太い両腕で受け止めた。
「やはり、あれでは死なないか」
 ストーは一言ボヤくと、私を槌ごと持ち上げ、ゴニトスとは反対方向へと投げ飛ばした。そして、また先ほどと同じように、私の周囲に刃物の雨を展開した。
 どうにか空中で姿勢を持ち直した私は、地面を蹴ってもう一度ストーの元へ飛び込んだ。ストーは先ほどとは違い、意外な顔をしていた。
 ドンッ。二発目のフルスイングはストーの鳩尾にヒットした。ストーは、洞窟の横に建てられていた柱の方へ吹っ飛んでいった。
「私はあなたを殺すつもりはないんです。だから、洞窟に入れてください!」
 私がストーに歩み寄ろうとすると、ストーはまた石の雨を作り出した。私は咄嗟に槌でガードした。
 どうやら、一筋縄ではいかないみたいだ。
「「勇者」。お前はダメだ、絶対に」
「弟を生き返らせたいんです!お願いします……人殺しなんてしたくない」
「〈弟〉……か。だが、ダメなものはダメだ」
 チャンスは与えた。ストーは意地でも洞窟に入れないつもりだ。ならばこちらも、手段を選んでいる余裕はない。
 私は槌を構えた状態で、目を閉じて精神統一をした。そして、槌の柄をストーに届くくらいまで伸ばした。彼に槌を叩きつけ、そのまま反対側のシンメトリーに建てられた柱へ吹っ飛ばした。
 柄が伸びてからストーに叩きつけるまで数秒だったため、ストーは完全に不意を突かれたような顔をした。そして、ボキッという骨が折れる音とともに、柱に叩きつけられた。
 岩の陰からその様子を見ていたゴニトスも、目を見開いていた。どうやら、私の秘策に度肝を抜かれたようだ。
 私はストーの元へ走った。彼は、口から大量出血をしており、体が横にくの字に曲がっていた。自分でやっておいてなんだが、そう長くは持たないだろう。
 ストーは私の姿を確認すると、口角を上げぼそぼそと喋りだした。
「お前の……〈弟〉……」
 ストーは言葉の途中で力尽き、倒れた。
〈弟〉。数か月前に亡くなった、私の弟。
 彼は何故か、最後まで私の弟にこだわっていた。何か因縁でもあるのだろうか。
それに、彼が言っていた「ある人物」も気になる。もし、その「ある人物」も『万能の書』を狙っているとしたら、いずれは戦わなければいけない時がくるかもしれない。
 私が思案していると、ゴニトスがこちらへ来て、ストーの首元に指を当てた。そして脈を確認した後、彼の死体の前で手を合わせて目を閉じた。そして、しばらくの間ゴニトスは動かなかった。
 そういえば、ゴニトスは争いが嫌いだった。
「……イド、先へ進もう」
 ゴニトスにそう言われ、私たちは洞窟の中へ入っていった。

*     *     *

 幅が広めの一本道で、洞窟の壁に火が灯っている松明が掛けてあったため、前後がよく見えた。私もゴニトスも、誰かが既に侵入しているかもしれないと、焦り始めた。もしかしたら、ストーが言っていた「ある人物」かもしれない。
 早歩きで急いでいると、前方から歌声と足音が聞こえてきた。私たちは、声がする方へ駆け出した。
 進むにつれて、声はどんどん大きくなっていく。やがて、その声の主の正体が分かった。
「誰かしら? あたくしの美しい歌声と靴音を邪魔する輩は?」
 そこに立っていたのは、銀色の鎧に身を包んだ金髪の女騎士だった。鎧は魔改造してるらしく、肩の部分が露出していた。腰には西洋の剣、サーベルをつけていた。八頭身で、西洋を思わせる高い鼻と、きついバラの臭いの香水をつけた女だ。
 ゴニトスは彼女の質問に答えず、逆に訊き返した。
「そういうあんたは誰だ!?」
「あたくしの名は、マイス。『万能の書』を手に入れる、スーパースターよ!」
 マイスはサーベルを天に掲げ、ポーズをとった。どうやら、賢くはないみたいだ。私とゴニトスは、彼女を憐れむような目で見つめた。
 マイスはくすりと笑うと、サーベルの先端をこちらに向け、真剣な顔でこう言った。
「あなたたちも『万能の書』をお望みなら、ここであたくしと決闘をしなさい!」
 マイスの腕が、華奢な体に似合わないほど膨張した。
 その直後、ゴニトスが持っていた本に無数の穴が出来ていた。彼女のサーベルに紙片が刺さっていることから考えて、どうやら彼女が串刺しにしたらしい。サーベルの速さは、人間の動体視力を優に越していた。
 彼女は、自分の顔の前でサーベルを縦にして、格好つけながら言った。
「あたくしの華麗な剣さばきに酔いなさい!」
 私とゴニトスは距離をとろうと、体を後ろにひいた。しかし、彼女は逃すまいと、距離を離さずサーベルで私たちを突いてくる。私の右頬に切り傷ができた。
 彼女はサーベルを突き続けながら、私たちを壁際へと追い詰めていく。
「ひいてばかりじゃ、状況は変わりませんわよ!」
 確かに彼女の言う通りだ。このままだと壁にぶつかり串刺しにされる。しかし、魔法の槌を出す余裕すら与えてくれないため、抵抗手段がない。
 ゴニトスに不意討ちをしてもらおうかとも考えたが、マイスは私とゴニトスの両方を突いている。ゴニトスの頬や服にも、かすり傷ができ始めていた。
 マイスは、私がゴニトスに気を取られた一瞬を見逃さなかった。彼女は私の心臓めがけてサーベルを突きだした。
「ふふっ、あら残念」
 私が刺される直前、ゴニトスが間に入った。マイスのサーベルはゴニトスの胸部に突き刺さった。マイスがサーベルを抜くと、胸部に空いた穴から〈赤い液体〉が流れてきた。ゴニトスは、その穴を抑えながら膝をついた。
「イド……今のうちに逃げ……ろ……」
 ゴニトスは私にそう伝えると、そのまま地面に倒れた。
「ゴニトス……?」
 私が必死に体を揺さぶるが、返事はない。ゴニトスの周りに徐々に、血だまりができあがっていく。
 マイスのサーベルの先端は、赤黒くなっており、マイスはそれを誇らしげに見つめている。
 許さない。
 魔法の槌を手元に召喚し、銀色の鎧に横から叩きつける。マイスは、不意討ちを直に喰らい、壁に吹き飛ばされる。
「なかなかやるじゃない。あたくしをもっと楽しませてちょうだい!」
 鎧があるから、ストーのようにはいかない。
 マイスはサーベルを突きながら、こちらへ走ってきた。
 私は槌を下から上に振り、マイスのサーベルを上空へ弾き飛ばした。サーベルは、後方の壁に突き刺さった。
 そして槌を袈裟切りのように斜めに振りおろし、今度は比較的対策の薄い肩に叩きつけた。
 魔法の槌の一撃により、マイスの魔法で強化された腕はポキッという音を立て、本来曲がらない方向に曲がった。マイスは地面に斜めから落ちる形で叩きつけられた。
「あたくしの腕が……折れた?」
 上半身を起こした彼女は痛みよりも驚きの方が強いらしく、折れた腕を見て呆然としていた。
 私が防具を付けていない彼女の頭に槌を喰らわせようとすると、彼女は折れていない方の腕の手を開いて前に出した。
「ま、待って。あなた、『万能の書』を手に入れたらどうするつもりかしら?」
「……弟とゴニトスを生き返らせる」
「〈弟〉……?」
 マイスは、ストーと同じ反応を示した。しかし、ストーとは違い、彼女は優しい顔になり、今までとは違った飾っていない口調で話し始めた。
「その〈弟〉さんはどんな少年だったの?」
〈弟〉。数か月前に死んだ、私の最愛の弟。
 私の弟は、どんな少年だっただろう。
 私は〈話しだそうとする前に〉魔法の槌を下から上に振り、マイスの顔へと叩きつけた。槌は彼女の顎に当たり、顔は180度反り返った。首の骨が折れると同時に、マイスの体はそのまま仰向けに倒れた。
 私はゴニトスの元へ行き、先ほど彼がストーにしたように、手を合わせて目を閉じた。
 数分そうした後、私はまた洞窟の奥へと進んだ。弟とゴニトスのためにも、『万能の書』はなんとしても手に入れなければならない。

*     *     *

 一時間近く洞窟を歩いていると、通路が段々開けてきた。壁には、柱が何本か建っていたが、〈誰にも傷つけられていなかった〉。
 やがて、開けた空間に出た。壁のカーブは滑らかに掘られている丸い広場のようだった。そこには巨体が、こちらに背を向けて立っていた。巨体はこちらに気づくと、驚く様子もなく振り向いた。
「よく来たな……ん?」
 目つきが鋭い、とてもきつそうな男だった。男は、私が来たことには一切驚きを見せなかったが、私が1人だと分かると、眉間にしわを寄せた。
「おかしい、2人のはずなんだが……貴様、まさか……!」
 男は顎に手を当てしばらく考えた。そして、魔法でバズーカを創りだし銃口をこちらへ向けた。
「……「勇者」よ。ここまでご苦労だった。さようなら。このシャットバーン、『万能の書』の番人として、貴様を殺す」
 ストーと同じだ。シャットバーンと名乗ったこの男も私を「勇者」と呼んだ。彼も「ある人物」の差し金だろうか。
 シャットバーンは、バズーカ砲をこちらへ放ってきた。
 私は、右に飛んでバズーカの弾を避けた。バズーカの弾は勢いそのままに壁にぶつかり爆発が起きた。爆発は人1人が吹き飛ぶほどの威力だったが、壁には〈傷一つつかなかった〉。
 シャットバーンは私の方を向いたが、二発目をすぐに撃ってくる様子はなかった。どうやら、弾の装填には時間がかかるみたいだ。
 私はそれを見逃さなかった。彼の足元に飛び込み、槌をシャットバーンに対して横に振った。シャットバーンは私の一振りを、後ろに飛び退いて避けた。
 私は彼との距離を離さないよう間合いを詰め、槌を往復ビンタのように左右に振った。シャットバーンも、バックステップで槌の一撃を避けていく。
 しかし、彼の背は徐々に壁へと迫っていた。それに気づいたシャットバーンは、槌の攻撃と攻撃の一瞬の隙をついて、空中へ飛んだ。そして、バズーカ砲を私に向けて放った。
 幸い、直撃を免れることは出来たが、爆風で反対側の壁に一気に吹き飛ばされた。しかし、痛みは〈自分でも驚くほど〉なかった。
 シャットバーンが追撃してくるのを予期し、魔法の槌を持ち直し備える。
 シャットバーンは予想通り、土煙の中からこちらに飛び込んできた。彼は私が態勢を立て直しているとは思っていなかったのか、驚いた表情をしていた。
 私は飛び込んできたシャットバーンを、魔法の槌を使ってバッティングセンターで飛んできたボールのように打った。槌はシャットバーンの右肩を捕らえ、彼は飛び込んできた方向から90度左へ吹っ飛んでいった。
「シャットバーンさん、教えてください。『万能の書』はどこですか?」
 私がシャットバーンに問いかけながら近寄ると、彼は土煙の中からバズーカ砲を放ってきた。それを察したのか、私の体は〈勝手にそれて〉、弾を避けた。
「貴様にやるくらいなら、我輩がこのバズーカ砲で燃やしてくれる!」
 私はシャットバーンの前に立った。彼は、バズーカの銃口をこちらに向けている。身体はボロボロだったが、その目は殺意に満ちていた。
「シャットバーンさん、今あなたが『万能の書』の場所を教えてくれれば、その傷も――」
「拒否する! さあ、殺せ!」
 チャンスは与えた。シャットバーンは、意地でも『万能の書』の在りかを教えないつもりだ。ならばこちらも手段を選んでいる余裕はない。
 私は魔法の槌を下から上に振り、シャットバーンの顔へと叩きつけた。槌は彼の顎に当たり、顔は180度反り返った。首の骨が折れると同時に、シャットバーンの体はそのまま仰向けに倒れた。
「プリ・ゴニ……ト……」
 私はシャットバーンの首元に指を当てた。そして脈を確認した後、周りを見渡した。進んできた道とは反対側に、1つ通路があるのが見えた。
〈私がそこへ向かおうとすると、突如石の雨が落ちてきて、地面に突き刺さった。私はその石を、持っていた槌を振り回しながら砕いた〉。
 周りを見渡すと、ゴニトスがこちらを向いて立っているのが分かった。分厚い本の真ん中あたりを開いて、片手で持っている。表紙と裏表紙共に見えなかったが、彼が持っているのが『万能の書』だと察するのに、そう時間はかからなかった。
 私が近づこうとすると、本を持っていない方の手を前に出し、制止した。
「ゴニトス!? 確か、マイスに刺されて――」
「それはあんたの主観でだよ、「勇者」。誰も死んだなんて〈書いてない〉」
 ゴニトスはこちらの質問に簡潔に答えると、まるで〈原稿〉があるかのような流暢さで、〈長台詞〉を話しだした。
「俺は「起承転結」の「承」で〈かつて〉の仲間を失い、「転」で「勇者」の視点において死んだ。そして今、「結」で最後の敵として対峙している。俺はあんたを、俺の二の舞にしたくなかった。この〈視点〉を手に入れてしまえば、〈消される〉。知らぬが仏だったんだ。だから、俺はあんたを殺そうとした」
 ゴニトスが私を殺そうとした。その事実を確かめるために、〈過去の文〉を思い出してみる。
 ゴニトスは、ストーの遺体に対して手を合わせて弔っていた。ストーはゴニトスの仲間だったのだ。つまり、ストーの言っていた「ある人物」とは、ゴニトスだった可能性が高い。
 今思うと、シャットバーンの反応もおかしかった。『万能の書』の番人でありながら、彼は侵入者が2人いないことに腹を立てていた。そのこととゴニトスの話を合わせると、シャットバーンは、ゴニトスと私が侵入するのを知っていて、ゴニトスと共同で私を殺そうとしていたということになる。彼も〈かつて〉の仲間だったのだろうか。
 しかし、ゴニトスは私の殺害に失敗している。それに、〈かつて〉とはいつのことを指すのか。疑問は尽きない。
 しかし、ゴニトスは私に質問する隙を与えず、〈台詞〉を続けた。
「だが、あの女がそれを邪魔した! あの女さえいなければ、お前は〈分からず〉に済んだんだ! 全てを〈バッドエンド〉として処理できた!」
「ゴニトス!一体何の話を――」
「分からないなら、ヒントを出してやる。あんたの〈弟〉は何者だ?身長は、体重は、名前は、髪型は、利き手は、死因は? そもそも、あんたに〈弟〉なんているのか? 俺は、お前の〈弟〉なんか知らない。心のどこかで分かってるんだろう? よく思い出してみろ」
〈弟〉。数か月前に死んだ、私の最愛の弟。それ以外に〈記述〉はない。
マイスに〈弟〉について尋ねられた瞬間に、私の脳内には〈弟〉という単語が漠然と浮かんだ。あの時はその先を〈考えることが出来なかった〉が、今思うと私に〈弟〉なんていなかったのかもしれない。
 私は一体今まで、何のためにここまで苦労したのだろう。〈弟〉という、〈設定上の〉存在に踊らされていたのか。それとも、〈弟〉がここまで私を〈動かした〉のか。
「俺にはもう分かってる。これも全て〈シナリオ通り〉だからな。……ここまでご苦労だった、さようなら。「勇者」イド・ジューレン。君の〈物語〉は、ここで幕を閉じる」
〈ゴニトスは空中に先ほどと同じ石を、私の頭上に雨のように展開した。私はその石を、槌を振り回しながら砕いた〉
〈石器の雨が止んだ瞬間、私はゴニトスのすぐ近くまで飛び込んだ。そして、ガツンと一発、槌でフルスイングをかました〉
 ゴニトスは、予期していたように、その一撃をマイスの魔法で強化した太い腕で受け止めた。
「諦めろ」
〈ゴニトスは私を槌ごと持ち上げ、反対方向へと投げ飛ばした。そして、また先ほどと同じように、私の周囲に刃物の雨を展開した〉
〈どうにか空中で姿勢を持ち直した私は、地面を蹴ってもう一度ゴニトスの元へ飛び込んだ〉
 しかし、ゴニトスはこの攻撃も読んでいたらしく、槌を両腕で受け止めた。
「二度目はないぞ」
 ゴニトスは強化された腕を使って、先ほど同様私を投げ飛ばした。そして、シャットバーンと同じバズーカの弾をこちらへ向けて放ってきた。
 私は、右に飛んでバズーカの弾を避けた。バズーカの弾は勢いそのままに壁にぶつかり爆発が起きた。爆発は人1人が吹き飛ぶほどの威力だったが、壁には〈傷一つつかなかった〉。
 ゴニトスは私の方を向いた。そして、私の頭上に雨のように展開した。
「ゴニトス!戦わなくちゃダメなのか?」
 降り注ぐ石の雨を凌ぎながら、ゴニトスに説明を要求する。
 しかし、ゴニトスは答えない。彼は、バズーカの銃口をこちらに向け1発放った。
〈私は、右に飛んでバズーカの弾を避けた。ゴニトスが追撃してくるのを予期し、魔法の槌を持ち直し備える〉
〈ゴニトスは予想通り、土煙の中からこちらに飛び込んできた〉
〈彼は私が態勢を立て直しているとは思っていなかったのか、驚いた表情をしていた〉
〈私は飛び込んできたゴニトスを、魔法の槌を使ってバッティングセンターで飛んできたボールのように打った。槌はゴニトスの右肩を捕らえ、彼は飛び込んできた方向から90度左へ吹っ飛んでいった〉
 同じことの繰り返しだ。先ほど〈書かれた〉ものと、殆ど同じ光景が再現された。ゴニトスは、〈意識せずに〉繰り返している。私は、それが〈シナリオ通り〉であることを〈読み取った〉。
 私は、吹っ飛ばしたゴニトスの元へと走っていった。
〈彼は、口から大量出血をしており、体が横にくの字に曲がっていた。自分でやっておいてなんだが、そう長くは持たないだろう〉
 ゴニトスは持っていた『万能の書』を手放し、私の方を真っすぐ見て、ニヒルな笑顔を浮かべた。
「俺は〈警告〉したからな?」
「聞いてくれ、ゴニトス。これ以上、君とやり合うつもりは――」
 私は〈話し終える前に〉魔法の槌を下から上に振り、ゴニトスの顔へと叩きつけた。彼はマイスやシャットバーン同様、首の骨を折りそのまま倒れた。
 この際、当初の目的だった〈弟〉はどうでもいい。今の私の使命は、ゴニトスを甦らせることだ。
 私は『万能の書』を手に取った。『万能の書』はゴニトスが持っていた時よりも、大分薄くなっているように感じた。
 本を開いた。最初から数ページは開かなかったため、私は途中からのページを開いてみた。
〈受け継がれることはない物語〉。私が開いた最初のページには、そう書かれていた。魔法が載っていないことに疑問を持ちつつ、先を読み進めることにした。
「こ、これは……!」
 するとそこには、〈今までの私の記録〉が記されていた。私が感じたこと、思ったこと、〈違和感〉が全てそのまま記されており、私の主観で〈小説のように〉書かれていた。
 私の意思とは関係なく、本のページが1枚ずつめくれ始めた。じっくり読もうとページの端を掴もうとするが、紙は私の手元をすり抜けていく。前のページへ戻そうとしたが、どれだけ力を込めても前のページへ戻ることは出来なかった。前のページと表紙は、閉じた貝のように離れなかった。
 やがて本が閉じ、背表紙が見えた。そこには、先ほどまでは本を持った愚かな「勇者」が立ち尽くす姿が描かれていた』

後書き

未設定


作者 惨文文士
投稿日:2018/03/18 01:44:35
更新日:2018/03/18 01:44:35
『万能の書』の著作権は、すべて作者 惨文文士様に属します。
HP『惨文文士 twitter

読了ボタン

button design:白銀さん Thanks!

読了:小説を読み終えた場合クリックしてください。
読中:小説を読んでいる途中の状態です。小説を開いた場合自動で設定されるため、誤って「読了」「読止」押してしまい、戻したい場合クリックしてください。
読止:小説を最後まで読むのを諦めた場合クリックしてください。
※β版(試用版)の機能のため、表示や動作が変更になる場合があります。

自己評価


感想&批評

作品ID:631
「万能の書」へ

小説の冒頭へ
作品紹介へ
感想&批評へ
作者の住民票へ

ADMIN
MENU
ホームへ
公国案内
掲示板へ
リンクへ

【小説関連メニュー】
小説講座
小説コラム
小説鍛錬室
小説投稿室
(連載可)
住民票一覧

【その他メニュー】
運営方針・規約等
旅立ちの間
お問い合わせ
(※上の掲示板にてご連絡願います。)


リンク共有お願いします!

かんたん相互リンク
ID
PASS
入力情報保存

新規登録


IE7.0 firefox3.5 safari4.0 google chorme3.0 上記ブラウザで動作確認済み 無料レンタル掲示板ブログ無料作成携帯アクセス解析無料CMS