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ドライセン王国シリーズ:滔々と流れる大河のように(冒険者編)

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前書き・紹介


第五章「ドライセンブルク」:第15話「宮廷裁判」

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第5章.第15話「宮廷裁判」



 シルヴィアの話を聞いていたことにより、一時間半ほど時間が過ぎていた。



 もう一杯お茶をもらおうと、女官に声を掛けようと思ったとき、ドアの方からノックの音が聞こえてきた。



 王宮の騎士なのだろうか、やや華美な見慣れない衣装を着た騎士が俺の出番が近いこと告げる。



「タカヤマ殿、謁見の間の前までご同行願いたい。そちらの二人は女官に従い謁見の間近くの控え室に移動するように」



 二人に大丈夫だからと声を掛けてから、騎士に従って謁見の間の近くまで移動する。



 謁見の間の入口は、高さ四mはあろうかという大きな扉で、その前には曇り一つない銀色に輝くプレートアーマーを着た重装備の衛士が二人並んでいる。



 案内してきた騎士に剣などの武器を渡して待っていると、目の前の大きな扉が左右に開き始めた。



 俺は作法通り、片膝を着いて扉が開くのを待ち、中からの呼び出しの声を聞いてから、案内の騎士に従って、ゆっくりと中に入っていく。



 謁見の間は奥行き三十mくらい、幅二十mくらいの大きな部屋で、扉から玉座まで深紅のカーペットが伸びている。

 カーペットの両側には重臣たちが並び、玉座の前にはクロイツタール公爵が立っている。

 俺は早足にならないよう気を付けながら、玉座まで十mくらいの位置で一旦止まり、一礼して跪く。そして重臣たちの列の一番扉に近い位置に移動する。



(ふぅ。多分作法通りで問題ないよな)



 そう自分に言い聞かせ、心を落ち着かせる。

 少し緊張を解すことができた俺は周囲の状況を確認しようと、視線を動かしていく。

 玉座の方をじろじろ見るのは不敬に当たるそうなのであまり見られない。

 不自然にならない程度に周りを見渡していくと、百人以上は入れるのだろう謁見の間に二十数人と少人数しかいないため、かなり閑散とした印象を受ける。

 白い大理石のような壁に色とりどりのタペストリー、玉座の奥には三本の剣(つるぎ)と獅子をかたどった王家の旗が掛けられている。



 現国王レオンハルト八世はもうすぐ六十歳になると聞いたが、玉座に座るその姿は、銀色の髪と同じ色の立派な髭、まだ五十前の男盛りと言ってもいいほど若々しい。笑みを浮かべているように見えるが、一国の支配者らしい存在感、威圧感(プレッシャー)を感じる。



 国王の隣には、思慮深い賢者の趣がある七十歳くらいのやや背の低い文官がいる。恐らく前宰相のマールバッハ公だろう。深く刻まれたしわと少し緩んだほほで見た目は高齢だが、まだ六十歳を少し過ぎただけだったはずだ。



 マールバッハ公の隣には四十代前半の痩せた文官が立っている。広い額と射抜くような目がいかにも能吏という感じがする。今回の進行役らしく、書類を手に持ち、国王のすぐ脇に控えている。恐らく現宰相のヴィース公だろう。



 本来であれば、クロイツタール公も国王の横に立つのだろうが、告発者と言う立場上、玉座の前に並んでいるのだろう。



 俺が周りを見ていると、ウンケルバッハ伯とコルネリウスの呼び出しがあった。



 ウンケルバッハ伯は強がっているのか余裕の笑みを浮かべ、堂々と謁見の間を進んでくる。

 一方、コルネリウスは目が泳ぎ、時々足をもつれさせながら、伯爵の後ろを歩いている。



(伯爵の余裕は本当にブラフなのか?)



 少し疑問に思ったが、すぐに開始の宣言がされたので、そちらの方に集中した。



 進行役(多分、宰相のヴィース公)がクロイツタール公暗殺未遂事件について、クロイツタール公からの告発文を読み上げている。

 重臣たちは概要を知っているのか、大きく表情を変える人物はいない。だが、ジーレン村の惨殺事件について言及されると何人かが顔を顰めている。

 ヴィース公の読み上げが終わり、クロイツタール公に付け加えるべき事項はないかと訪ねたが、公爵は一言「否」とだけ答え、後は沈黙している。



(こうやって見ると凄い人なんだなと思えるんだけど、普段の脳筋なところ見ると……)



 この間、国王は一言もしゃべらず、ヴィース公にすべて任せている。



 次にウンケルバッハ伯に弁明の機会が与えられた。

 ウンケルバッハ伯は跪いたまま、今回の件は甥であるコルネリウスが起こしたことで、自分は全く関与していない。

 王国の伯爵家当主が帝国の手先になったとするクロイツタール公の告発は、建国より三五〇年続くウンケルバッハ家の名誉を毀損するものであり、如何に王国の重鎮、三公家と雖(いえど)も、証拠も無く告発したことは許しがたいことだと訴えている。



 ほとんどの重臣たちはウンケルバッハ伯爵の言に感銘を受けた様子は無く、冷ややかに見つめている。



 ヴィース公より実行犯であるコルネリウスへの尋問が開始される。



「クロイツタール公を暗殺しようとした事実に相違ないな」



「い、いえ、そのような大それたことは考えたこともございません」



「では、ジーレン村の領民を殺害した件はどうか」



「ぼく、いえ、私は伯父ウンケルバッハ伯爵の命を受け、盗賊を討伐にいっただけです。領民は盗賊に殺されたのだと思います」



 コルネリウスは必死に考えてきたであろうセリフを棒読みのように口にしていく。

 緊張しているのがありありと判る弱弱しく声で宰相の問いに答えていく。



「では、ジーレン村の領民が殺害された雪の月、第三週の日の曜(一月十一日)の夜はどこにおったか説明してみよ」



「と、盗賊を追って一晩中街道を行き来していました」



「その日は雪が降り、相当危険な天候であったと聞く。陛下の御前(おんまえ)で偽りを申すか!」



 宰相の一喝にコルネリウスは怯む。



「ひっ、偽りなど……」



「タイガ・タカヤマ、これへ」



 いきなり俺の出番のようだ。

 俺は前に一歩進み、一礼してから玉座に近づいていく。

 コルネリウスの横で一礼してから、片膝をついて跪く。



「タカヤマ、そなたはジーレン村領民殺害事件の当日に当該の村に立ち寄ったと告発文にあるが、相違ないな」



「ございません」



「では、重ねて問う。このコルネリウス・ウンケルバッハをその村で見たというのもまことか」



「間違いございません」



「コルネリウス、証人がおる。それでもまだ言い逃れをするか」



「この者はどういった素性のものなのでしょう。この者こそ帝国の手先ではないのでしょうか」



 コルネリウスは俺の方を一睨みしてから、逆に俺を告発してきた。



「タカヤマ、そなたはクロイツタール騎士団のものとなっておるが、相違ないな」



「はっ、公爵閣下より副長代理の任を拝命しております」



「クロイツタール公、間違いないですな」



 宰相はクロイツタール公の方を向き、確認している。公爵も淡々と答えを返している。



「うむ、儂が特殊任務のために直々に任命した。間違いござらん」



 ここから、コルネリウスへの尋問が続いていった。

 ヴィース公の執拗な尋問に、次第に答えに矛盾が出始め、コルネリウスは涙声になっていく。

 周りからは失笑が漏れ始め、コルネリウス有罪の流れは確定していった。



 コルネリウスへの尋問は、ウンケルバッハ伯の関与に及ぶが、こちらは明確な証拠も無く、ウンケルバッハ伯の巧みな言い逃れに徐々に無罪に傾いていく。



 クロイツタール公が発言を求め、ウンケルバッハ伯のジーレン村への到着時間の矛盾を突くと、ウンケルバッハ伯は、



「私も公爵を見習いまして、守備隊の訓練を厳しくし、領内の治安維持に腐心しておったのです。我が領民が襲われていると聞き、守備隊もいつも以上に頑張ったのですよ」



「卿の手の者を尋問したところ、その日に限って、前日より朝一番で出動するから準備しておくようとの指示があったと聞いたが、それも誤りというのかな」



「公爵閣下ほどではございませんが、私にも武人としての勘という物がございます。その勘が明日は何かが起きると告げていたのです」



 ウンケルバッハ伯が抜け抜けと武人の勘などいうことに、ノルトハウゼン伯ら騎士団関係者は冷笑を向けるが、クロイツタール公は苦々しく伯爵の顔を見ている。



 ヴィース公はウンケルバッハ伯に対し、



「伯爵は甥のコルネリウスのクロイツタール公暗殺計画を知らなかったと言うことで間違いないか」



「間違いございません。聞けばコルネリウスめの計画では私も暗殺の対象になっていたそうではございませんか。自らの暗殺を計画することがありましょうや」



 突然、国王がよく通る低音の声で、ウンケルバッハ伯に問いかけた。



「うむ。ではジーレン村の惨殺について、伯爵の見解を聞こう」



「はっ。ジーレン村は我が領地、村民は我が子とも言える大事なものたちです。その者たちを我が血族である甥が惨殺したこと、慙愧の念に耐えません。此度のことは我が甥に対する監督不行き届き。この件に関しましてはどのような罰も甘んじてお受けいたします」



「卿の言はよく判った。では、コルネリウスが帝国の手先になったこと、クロイツタールを暗殺しようとしたことに対しても責任を感じておるのじゃな」



「ぎょ、御意にございます……」



「うむ。ヴィース公、途中で口を出して済まぬな。続けよ」



(王様もなかなか狸だね。領民の保護義務違反だけでなく、対帝国戦略での失態と王国の秩序を乱すことを防げなかったことまで認めさせたよ)



「それでは、方々よりなにかご意見は」



 その言葉を待っていたかのように、三十代半ばの煌びやかな騎士服を着た美丈夫が発言を求めてきた。



「宰相閣下、発言を求めます」



「許可する。近衛騎士団長は何を確認したいのか」



(あれがレバークーゼン侯爵か。思っていたより若いし、見た目もいい。野心丸出しのギラギラ、ギトギトした男かと思ったが、舞踏会で貴婦人たちに囲まれている伊達男という感じだな)



「まず、コルネリウス卿が帝国の手先でクロイツタール公を暗殺しようとしたという件でございますが、まことでしょうか。証拠は状況証拠と平民の証人のみ。帝国の草も本物かどうか怪しいものでは」



「レバークーゼン侯、具体的に言ってもらいたい」



「はっ。では、そこのタカヤマなる騎士にいくつか質問をさせていただきたい」



 ヴィース公は国王に確認してから、レバークーゼン侯に許可を与える。



「タカヤマとやら、そなたはクロイツタール騎士団副長代理とのことだが、ジーレン村には単独でかつ冒険者の格好で現れたと聞く。理由を答えよ」



(うっ、想定Q&Aで答えてはいけない項目だ)



 俺が時間稼ぎをしようとしたとき、クロイツタール公が代わって答え始めた。



「それについては儂から説明しよう。この者には冒険者として”北方”の動向を探らせておった。その報告を一刻も早く儂に届けようしたのだ」



「しかし、単独では危険ではございませんかな」



「心配無用。この者は儂より強い。国外ならともかく、王国内でこの者が危険に陥るような状況になれば大事(おおごと)じゃ」



「左様ですか。では、タカヤマ。帝国の”草”の尋問に成功したと聞く。グローセンシュタイン殿が長年成功しなかったことをいとも容易くに成功させた。どのような方法で尋問したのか答えよ」



「はっ。自分は尋問の専門家ではございません。魔法を使った芝居を打ち、ヤンなる帝国の者の恐怖心を煽りました。ヤンなるものが特別未熟だった可能性もあるかと思われます」



「ほう、その方は魔法も使えると。総長閣下に自らより強いと言わしめ、更に魔法まで使えると」



 侯爵はここで言葉を切り、鋭い口調で俺を弾劾してきた。



「その方こそ帝国の手のものではないのか!」



 俺が答えを考えていると、公爵が普段からは考えられないほど冷たい声で、



「近衛騎士団長、卿は儂自らが信任しておる部下を告発するのだな。儂に対する告発と受け取ろう」



 公爵は笑みを湛えて、



「ああ、これは間違いであったでは済まん話だな。この者が帝国の手先であったなら儂が職を辞するのは当然として、それを証明できん場合は、卿が職を辞すると考えてよいのだな」



「言葉が過ぎたようです。総長閣下。今の発言を取り消し、謝罪いたします」



 レバークーゼン侯爵は自らが性急すぎたと思ったようだが、余裕の笑みを浮かべて謝罪の言葉を発する。



「謝罪を受け入れよう。だが、よく考えよ。コルネリウスなる者はジーレン村の虐殺はともかく、騎士団総長たる儂に弓を向けたものだ。騎士団総長に何かあれば、帝国が動くことも十分あり得た。すなわち、この者は陛下に弓を向けたのだ。そのようなものを庇い、帝国との戦争を未然に防いだ我が配下を不当に貶めるのは、陛下に仇なす行為だとは思わんかな」



(閣下もなかなかやるね。俺の一件を爵位による権威の差と総長と近衛騎士団長の権威の差を見せ付けることにうまく使っている。更に陛下を蔑ろにするのかという理屈に持っていっている。しかし、この侯爵様は意外と詰めが甘いのかな?)



 公爵が話し終えると、国王が静かに話し始めた。



「宰相、済まんが少しだけ割り込むぞ。レバークーゼン侯、そなたが我が王国のことを思っておることは、余は十分判っておる。だが、王国のために尽力した者を身分が低いからと認めぬのは国のためにならん。そのことを肝に銘じて励むようにな」



「そ、そのような……はっ! 陛下のお言葉、我が魂に刻み付けます」



(うわぁ、この王様の論理のすり替えもすげぇ。平民とは言ったけど、身分が低いから認めないじゃなくて、魔法も使えて剣も使える怪しい奴だから認められないって話だったのに。何か裏があるのか?)



 この話のおかげで俺に対する尋問は終了した。



 その後、ウンケルバッハ伯については、マールバッハ公爵家に連なる名門であるため、シュテーデ伯辺りから「ご寛恕を」といった意見も出たが、当のマールバッハ公爵が「我が一門であるという理由での減刑は無用」との一言で立ち消えになった。



 幸いアマリーの出番は無く、国王の裁定が始まる。



 国王からヴィース公に耳打ちされ、ヴィース公は大きく頷くと、コルネリウスに向かって裁定結果が申し渡される。



「コルネリウス・ウンケルバッハ。王国騎士団総長暗殺未遂及び敵対国の不穏工作への協力、ジーレン村領民虐殺の罪により、斬首の刑とする」



 コルネリウスは外聞もなく泣き叫び、騒ぎを聞いた衛士たちにより、謁見の間から連れ出されていった。

 ヴィース公は続けて、



「アウグスト・ウンケルバッハ伯爵。保護すべき領民の虐殺をみすみす許したこと、甥であるコルネリウスの暴挙を防げなかったことにより、領地をウンケルバッハ市周辺に減封の上、家督を嫡子に譲り、隠居を命ずる。当面の間、領地において謹慎すること」



(あれだけやっても謹慎処分かよ。普通死罪だろう)



 俺はうなだれるウンケルバッハ伯爵を見ながら、この”裁判”というか茶番劇について考えていた。



 今回の裁判については、レバークーゼン侯がクロイツタール公追い落としの材料にするため、ウンケルバッハ伯爵に知恵を付けた可能性は否定できない。

 伯爵の無罪が確定すれば、告発した公爵の責任を問えるからだ。

 完全に責任を問えないまでも、この”裁判”の過程の中で公爵の行動、特に俺を採用したことが問題ありとされれば、貴族社会での影響力をそぐことはできただろう。



 伯爵が当初余裕を持っていたのは、レバークーゼン侯に「クロイツタール公を逆告発するから任せておけ」とでも言われていたのかもしれない。

 だが、クロイツタール公の逆襲と国王の発言により、公爵を逆告発する流れに持って行けなくなったことから、レバークーゼン侯はウンケルバッハ伯を切り捨てたのではないか。



(レバークーゼン侯爵の誤算は俺を追いつめる前に閣下が強気に出たことだろうな)



 一介の冒険者という情報でも掴んでいたのだろう。

 騎士団総長が自らの地位を掛けて一介の冒険者たる俺を庇うとは考えていなかったのではないか。





 ウンケルバッハ伯は不満気ながら、深々と頭を下げ、退出していく。

 俺の前を通る時、怨嗟の篭った目で一睨みされ、俺は思わず戦慄する。



(逆恨みされているよ、絶対。まあ、権力も金も失ったから大丈夫だと思うけど、あの目にはゾッとする)



 まだ、背中がゾワゾワする感じはあるが、ようやく終わったと心の中で安堵していたのだが、突然、ヴィース公より声が掛かる。



「タイガ・タカヤマ」



 俺は焦って「は、はい」と普通に答えながら、前に進む。



(なんだ、まだ尋問があるのか? ヤンの件かなぁ)



「陛下よりお言葉がある」



「タカヤマ。余の剣(つるぎ)たる騎士団総長の危機を救ったこと大儀であった」



 俺は答えていいものか判らなかったので、頭を深々と下げるだけに留める。



「褒美を取らす、准男爵の爵位でも領地でもよい。望みを申してみよ」



 俺が困っていると、ヴィース公が「直答せよ」と言ってくれたが、こんなところで報奨を受けると、仕官させられたり、妙に有名になったりと碌なことが無さそうなので辞退することにする。

 昨日の打合せではこういう想定は無かった。アドリブになるため、うまい言葉が浮かばない。

 国王と宰相以下の重臣たちを待たせるわけにもいかず、思いつくまま話を始める。



「陛下に申し上げます。この度のことは偶然の結果であり、私の功ではございません。私への褒美をお考えでございましたら、ジーレン村の再建にお使いいただくようお願いいたします」



 俺がそう言うと周りはざわめき始める。だが、下を向いたままなので、周りの状況が見えない。



(失敗した? 偉い人の好意を無にしたのは拙かったかな)



「爵位も領地も不要と申すか。クロイツタール公は面白い部下を持っておるようじゃの」



 公爵は「御意」とだけ答えている。



「褒美の件は保留としよう。何か欲しくなったら公爵を通じて余に連絡せよ」



「はっ!」



 俺は冷や汗が止まらない。一つ間違えたら「余の好意を無にするつもりか」となる可能性もあった。



 俺はどうやって退出したのかよく覚えていない。



(宮廷では生きていけないよ……やっぱり冒険者が一番いい……)



 裁定はおよそ三十分で終了した。

 謁見の間の扉の外に出た後、俺の後ろにいた騎士が剣を返してくれるまで、俺は呆けていたようだ。

 騎士に促されて、最初に入った控え室に戻るが、今頃になって急に足の震えが始まる。

 アマリーたちもすぐに戻り、三人で安堵の息を吐くが、俺の様子がおかしいのに気付いたようで心配している。

 俺は「大丈夫」とだけ答え、三人が揃ったので、ようやく公爵の屋敷に帰れると考えていた。

 護衛の騎士に聞いてみると、公爵から「指示があるまでここに待つように」との指示が出ているそうだ。



(疲れたし、早く帰りたいな。何かここにいても碌なことが起こらないような気がするし……)



 アマリーとシルヴィアに裁定について簡単に説明しながら、公爵を待っていると、三十分ほどで、公爵が現れた。



「今日はご苦労だったな」



 公爵は、労いの言葉を俺に掛けるが、ウンケルバッハ伯爵が死罪に問われなかったことが残念なようだ。

 だが、隠居の上、男爵家並の領地しか残らないそうなので、今後障害になることはないだろうとのことだった。



「しかし、陛下からの褒美を受け取らんとは驚いたぞ。普通の騎士であれば准男爵の地位を蹴ることなどありえんからな」



 准男爵位は、一代限りだが功績のある騎士に与えられる名誉爵位だそうだ。

 名誉の他に宮廷や騎士団での高い地位が約束され、俸給も男爵領の収入並に与えられるそうだ。

 准男爵位を得たものは、ここ十年では一人もいないそうで、謁見の間がざわついたのはそのせいだそうだ。



(そんなこと知らないよ! ああ、やっちまったな。別に無欲なわけじゃないけど、これは変に目立つよな。陛下も金貨千枚を遣わすとか言ってくれたら、ありがたく頂いたのに……)



 俺はこの褒美を断った件が今後にどう影響するのか気になっていた。



後書き


作者:狩坂 東風
投稿日:2013/01/11 22:54
更新日:2013/01/11 22:54
『ドライセン王国シリーズ:滔々と流れる大河のように(冒険者編)』の著作権は、すべて作者 狩坂 東風様に属します。

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