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「ドライセン王国シリーズ:滔々と流れる大河のように(冒険者編)」を読み始めました。

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ドライセン王国シリーズ:滔々と流れる大河のように(冒険者編)

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前書き・紹介


第五章「ドライセンブルク」:第17話「御前試合」

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第5章.第17話「御前試合」



 隣で寝ているアマリーも目覚めたようで、口づけを交わしてから、ベッドから起き上がる。

 隣の部屋に行くと、ソファで眠っていたシルヴィアも既に起きており、着替えも済ませていた。



「昨夜は気を使わせて、すまなかったな」



「構わない。元々寝室で寝るつもりが無かったから」



 シルヴィアはいつもと同じ無表情な顔でそう答えてくる。



 準備を整え、公爵の後に続き近衛騎士団本部の錬兵場に向かっているが、アマリーもついてきている。本当のことを言うと、負けたときのことを考えて、連れて行きたくなかったが、アマリー自ら公爵に頼みこみ、同行を許されることになった。

 護衛として従騎士姿のシルヴィアもアマリーに従っている。



 公爵を見ると、いつものような気さくな感じは無く、厳しい表情を崩していない。



(何かいつもと様子が違うな。頼んだことを忘れていなければいいけど……)



 俺が頼んだ三本勝負の件は、公爵から依頼してもらわないとあまり意味がない。

 俺から言い出せば、自信がないから三本勝負なのだろうと思われ、魔法を使ってもいいから一本勝負で、と言われかねない。



 今日の俺の装備はダンクマールの防具にクロイツタール騎士団のマント、剣は持たず、愛剣のタイロンガは公爵の護衛の騎士に預けてある。



 近衛騎士団の錬兵場に到着。

 錬兵場は、五十m四方くらいの闘技場になっており、周囲は観覧席が設けられている。

 闘技場に入る一番大きな扉の正面に立派な椅子が並ぶ貴賓席が設けられ、小姓たち側仕えのものが準備を行っている。

 公爵は貴賓席へ、アマリーたちは目立たないよう右側の観覧席の端の方に立っている。



 俺は用意してあった模擬剣から一番合う物を選び出し、試合開始十五分前には準備が完了していた。



(こういう待ち時間が一番緊張するんだよな。うー、早く始まってくれ!)



 徐々に高まる緊張に耐えられなくなりそうで、無駄に素振りをしている。



 開始十分前、グリュンタールはレバークーゼン侯爵に伴われ、錬兵場に現れた。



 既に準備は完了しているようで、近衛騎士団の正式装備である銀色のプレートメイルに訓練用にしては煌びやかな装飾の細剣(レイピア)を持ち、レバークーゼン侯爵の後ろに立っている。

 視界を確保するためか、見た目を重視したためかは判らないが、ヘルメットはない。



(きっと見た目重視なんだろうな)



 俺の革鎧だと性能は断然勝るが、見た目でかなり劣る。ただし、これも作戦の内。



 午前九時ちょうどに国王が側近たちを伴って閲兵用の貴賓席に現れた。



 クロイツタール公爵、レバークーゼン侯爵は国王の前に向かい、一礼した後、左右に分かれる。



 俺とグリュンタールは互いに五mくらい離れた位置に立ち、国王に一礼、準備ができていることを示す。



「この試合の審判は、グローセンシュタイン子爵とする。双方異存は」



 国王がそう言うと、公爵たちは声を合わせるように「「御意のままに」」と答える。



 国王から開始の合図がなされようとした時、公爵が国王の前に進み出た。



「陛下にお願いがございます」



「なんじゃ?」



「この試合、三本勝負としたいのですが、いかがでしょうか」



「うむ。理由がありそうじゃな。申してみよ」



「はっ。我が配下のタカヤマは魔法剣士であります。グリュンタールは魔法剣士と戦った経験がないはず。そのような相手をいきなり魔法で倒してしまっては面白くありませんから」



 公爵は一旦言葉を切り、国王と侯爵の様子を窺った後に再び話し始める。



「一本目を魔法なし、二本目を魔法あり、三本目は陛下に魔法のありなしを決めていただくというのではどうでしょうか。近衛騎士団長、どうだ?」



「陛下の御意のままに」



「うむ、公爵の言うこともっともなことである。グローセンシュタイン、聞いたとおり三本勝負とせよ」



(とりあえず、第一関門突破。後は相手(グリュンタール)の実力が俺の想定内か、思っているような性格かにかかっている)



 グローセンシュタイン子爵より、”構え!”の合図があり、俺は持っている模擬剣を中段に構える。

 グリュンタールはスラリとレイピアを抜き放ち、右足を前に出して半身の形で構えを取っている。



(嫌になるくらい決まっている。別に恰好を付けなくてもいいんじゃないか)



 ”始め!”の合図と共にグリュンタールが金色のさらさらな髪をなびかせて、接近してくる。



(映画の一シーンを見ているみたいだ。本当に絵になるねぇ)



 場違いな感想が頭に浮かぶが、体は勝手に反応し、右に回るようにすり足で移動。

 相手も同じように向きを変え、更に接近、射程に入ったところで突きを放ってきた。



 銀色に輝く五条の閃光が走る。

 俺はバックステップしながら中段に構えた剣で突きを払うが、右の二の腕と左肩にレイピアが掠めていく。



(速い!)



 昨日のアンゲルスたちの三人同時攻撃とほぼ同じスピード。



 グリュンタールは余裕の笑みを浮かべ、一旦距離を取る。



(まだ余裕を残しているな。これ以上スピードが上がると正直厳しい)



「さすが、総長の秘蔵っ子。今の攻撃をかわされたのは久しぶりだよ」



 余裕のグリュンタールは俺に声を掛けてくる。



 俺はその声を無視し、攻撃に移ることにした。

 中段から下段に構えを変えつつ、一気に距離を縮め、相手の脚から胴に向かって斬り上げる。

 グリュンタールは軽く左にステップし、俺の攻撃をかわすと、切り上げた後の無防備な右肩目掛けて突きを繰り出してくる。



 今度は七本の銀色の閃光。

 俺は無様に倒れこみながら、その突きをかわし、二回ほど転がってから立ち上がる。

 グリュンタールは追撃もせず、俺が立ち上がるのを待っている。



(性格は俺が考えていた通りだな。格好を付けたがる)



 俺のような見た目を重視しない実戦的な防具に身を包み、必死の形相で挑んでくる相手に対し、倒れこんでいるところに突きを入れるなど、自分の美学に反する振る舞いとでも思っているのだろう。これで俺の勝率は更に上がった。



 俺は打つ手が無く、焦っているような表情を作り、相手を睨みつける。



「卿では私には勝てない。早く諦めて自慢の魔法とやらを見せてくれ」



 俺は憤慨したように「参る!」と怒鳴り、突っ込んでいく。



 グリュンタールの顔が一瞬喜色に染まり、突きを繰り出してきた。



 グリュンタールの突きが俺の体の防具で守られていない部分に数回突き刺さる。皮膚が破れる感じはあるが、さすがに剣先をつぶしてあるレイピアなので、完全に突き刺さることはない。俺は痛みを堪え、ミルコ直伝の強撃+狙撃のコンボで相手の肩を狙う。



 グリュンタールも、止めとばかりに喉元を狙って突きを繰り出してきた。



 俺は喉に突きが入る恐怖を堪え、そのまま剣を振り下ろす。

 俺の喉に固い剣先が食い込み、”グェ”という自分の声が聞こえる。そして一瞬、呼吸が止まる。目から涙が出てくるが、剣を振り下ろす速度は緩めない。



 激しい金属音と骨が砕ける嫌な音と共にグリュンタールの右肩に俺の剣が食い込んでいるのが見える。

 ブレストプレートを着たオークウォーリア相手に模擬剣で戦ってきた俺にとって、紙のように薄いプレートメイルの肩当など何の障害にもならない。



 俺は喉に入った突きのせいで息が止まり、膝をついて咳き込んでいるが、グリュンタールは痛みに耐えかねたのか、わめき声を撒き散らしながら、肩を押えて転げまわっている。



 近衛騎士団の治癒師が治癒魔法を掛けようとするが、グリュンタールは痛みのため転げまわることを止めず、治療が出来ない。



 俺は治癒魔法を少し掛けてもらうだけで回復したので、グリュンタールを鑑定で見てみた。



”右肩粉砕骨折”



 治癒師たちが何とかグリュンタールを押さえ込み、プレートメイルの留め金を外したが、肩の状態が酷く後遺症が残りそうだと治療方針を協議している。



 俺は一番偉そうな治癒師に近づき、「私がやりましょう」と強引に治癒魔法の再生を掛ける。

 治癒師は俺を止めようとするが、再生魔法であることに気付き、そのまま俺に治療を任せていることにしたようだ。

 鑑定で確認しながら、不完全骨折状態まで回復させると、「後はお任せします」と言って、目を丸くしている治癒師たちに彼を引き渡す。



 治癒師たちは我に返り、一分ほどで治癒を完了させた。



 治癒師の責任者が貴賓席に対して、報告を始める。



「陛下に申し上げます。グリュンタール殿の肩のケガにつきましては完治いたしました。試合の続行に支障はございません」



 国王は貴賓席から見ていたため、何が起こっていたのか判っていない。治癒師に詳細な説明を求めた。



「グリュンタール殿の右肩は我々では、即時の完治は困難な状態でしたが、タカヤマ殿の治癒魔法により我々でも完治可能な状態まで回復しておりました。最終的に我々で完治させましたが、タカヤマ殿が治癒魔法を掛けなければ、宮廷医師団の高位治癒師をお呼びする必要があったと思われます」



 国王は公爵に向かって



「あの者は治癒魔法も極めておるのか。公が入れ込むのも判らんでもない」



 グローセンシュタイン子爵が今の勝負の判定について、国王に報告する。



「陛下に申し上げます。ただいまの勝負は相打ち。両者引き分けといたします」



 俺は相手の方が早かったことと、引き分けでは困るので、



「グローセンシュタイン閣下、発言を許可頂きたい」



 グローセンシュタイン子爵は表情を変えず、俺を見据えて



「許可する」



「閣下には失礼ながら、今の判定に異議を申し立てます。今の勝負、グリュンタール殿の突きの方が早く、私の放った斬撃は突きが入った後にございます。よって、一本目の勝利はグリュンタール殿にございます」



「私には同時に見えた。うむ、いかがするかな」



 グローセンシュタイン子爵は、自ら出した判定を覆す根拠を見出せないため、判定を覆すべきか悩んでいる。



「騎士団総長閣下であれば、お分かりのはずです。総長閣下にご確認いただくわけには参りませんか」



「うむ。総長閣下、いかがですかな?」



 クロイツタール公は、なぜ俺が引き分けをみすみす放棄するのかという顔をするが、



「今の勝負、タカヤマの申すとおり。グリュンタールの方が早かった」



 子爵はクロイツタール公爵の言葉の通り、グリュンタールの勝利を宣言する。



「では、一本目の勝者は、グリュンタールとする!」



 グリュンタールは痛みの記憶のため真っ青な顔をしているが、今の判定を聞き、信じられないという顔になる。



 レバークーゼン侯爵も自ら不利な判定を求める俺に対し、「何を考えておる」というような表情を見せている。



 国王はクロイツタール公を見つめ、



「公もそうだが、そなたの部下も公正な男のようじゃな。今の勝負、余には相打ちにしか見えなかったぞ」



 公爵は先ほどの苦々しい表情をすっかり消し、平然と国王に答えている。



「恐れ入ります、陛下。かの者は不正な手段で勝ちを拾うのを潔しとしない性格でございますので」



(第二段階もクリアだな)



 これで最低一勝二敗でも、俺への追求はしづらいだろう。

 そんなことを考えていると、グローセンシュタイン子爵より、二本目の準備が伝えられる。



 グリュンタールは近衛騎士団の従士たちによって、新たなプレートメイルを装着されていく。

 俺の方は模擬剣を地面に突き刺し準備完了。



 俺が次の作戦に移ろうと子爵に声を掛けようとしたが、先にグリュンタールの方が叫び始めた。



「閣下! 今の攻撃で肩がうまく動きません! 試合の延期を!」



 子爵はグリュンタールをガラスのような無機質の瞳で見つめながら、



「近衛騎士団の治癒師の見立てでは完治となっておる。二本目、三本目は不戦敗となるがよいのだな」



「い、いえ……後日、再戦ということで……」



 子爵は目を細め、意気消沈したグリュンタールを見据えている。そして静かに



「陛下がご臨席される御前試合を卿の都合で延期せよと申すのか」



「……」



 グリュンタールはその言葉を聞き、一瞬無言になるが、いつものにやけた顔からは想像できないほど、必死になって再戦を望んでいる。

 しかし、グローセンシュタイン子爵は取り合う素振りも見せない。



(よし、第三段階も仕込みはOKだな。後は油断しない、窮鼠にしないことに気を配れば俺の勝ちは動かない)



 俺はグリュンタールの姿を見て、自らの勝利を確信した。



 子爵はグリュンタールに言っても埒が明かないと、レバークーゼン侯爵に判断を委ねる。



「近衛騎士団長、グリュンタールは再戦を望んでおりますが、再戦とする理由がございません。このままではグリュンタールの不戦敗となりますが、よろしいですかな」



「ま、待って頂こう! グリュンタール、そなたの傷は癒えておるのだ。グズグズ言わず試合を続行せよ!」



 グリュンタールは情けない顔で侯爵を見るが、取り付く島もないと諦め、貴賓席とグローセンシュタイン子爵に一礼し、闘技場の中央に戻る。



 子爵が”構え!”の合図をしようと手を挙げる前に、俺は最後の仕上げに掛かる。



「閣下、お願いがございます」



「何か」



 子爵は何度も中断を余儀なくされ、”今度はなにか”という顔をしている。



「私の魔法は些か特殊でございます。グリュンタール殿に一度見ていただいた方が”ケガ”の心配がないと思います」



 あえて、ケガという単語を強調し、グリュンタールの記憶を鮮明にさせる。



「では、いかがするのか」



「グリュンタール殿のすぐ横を通過するよう魔法を放ちます。それを見て頂いた後に試合開始をお願いします」



 子爵はグリュンタールに確認するが、



「間違ったと言って、私に当てるつもりではないのか」



 この発言に国王以下の貴賓席の面々は、騎士にあるまじき発言と眉をひそめているが、グリュンタールは気付いていない。



「もし、グリュンタール殿に掠りでもしましたら、その時点で負けとして頂いても結構です」



 子爵は、国王に一応確認を取り、



「タカヤマ、そなたの提案を認める。準備をいたせ」



 俺は一礼した後、グリュンタールに向かい、



「顔のすぐ右側を通過するように魔法を放ちます。決して動かないで下さい」



 そう言うと返事を待たずに最高出力の高密度型ファイアボールの呪文を唱え始める。



 二十秒ほどで魔法が完成し、五m先のグリュンタールの顔のすぐ横を狙い発射。

 コンマ一秒でグリュンタールの横を通過し、錬兵場の壁に激突し、白い光が弾けていく。

 グリュンタールは瞬きすらできず、俺を見つめているだけだった。



 彼くらいの回避能力があれば奇襲以外は回避できるのだろうが、一本目の肩への一撃が効いているのか、いつもの動きが出来ないようだ。



 貴賓席から感嘆の声が上がる。



「公爵、今の魔法は見たことがないぞ! こんなことなら宮廷魔術師も同席させればよかったわ」



 国王は立ち上がり、興奮気味にそう叫んでいる。



(何か芝居じみているな。侯爵への牽制か?)



 クロイツタール公爵は冷静に



「陛下、あの魔法はファイアボールだそうです。私も一度立ち会ったのですが、指一本動かせませんでした」



 レバークーゼン侯爵は憮然とした表情で黙っている。



 グローセンシュタイン子爵は貴賓席の様子を確認し、試合続行可能と判断したようだ。



(助かった。すぐに試合開始と言われたらマナ密度が戻りきらなかった。今ならペナルティなしでいける!)



 再び相手(グリュンタール)と向き合い、試合開始の合図を待つ。



 子爵より、「構え!」の言葉が発せられる。



(開始から五秒あれば魔法が撃てるんだが)



 グリュンタールは、まださっきの魔法の衝撃から立ち直りきっていないのか、視線が定まっていない。



 子爵から「始め!」の合図が掛かり、俺はすぐに最小出力のファイアボールの魔法を準備する。



 先ほどと異なり、グリュンタールは突っ込んでこない。それどころか細剣を構えたまま、全く動く気配がない。



「グリュンタール! 何をしておる!」



 貴賓席より、レバークーゼン侯爵の声が飛ぶ。



 その声に状況を把握したのか、グリュンタールが動き始めた。



(もう遅い)



 俺の魔法は既に完成しており、半身に開いた相手の左胸に吸い込まれていく。



 銀色の胸甲に白い火の玉が「パン!」という音と共に弾けて後方に飛んでいき、胸甲の左鎖骨付近が大きく変色している。

 命中の衝撃にグリュンタールは転倒。俺はゆっくりと接近し、剣を突きつける。

 錬兵場は静まり返り、一瞬遅れて子爵の判定の声が響き渡る。



「二本目の勝者! タカヤマ!」



 子爵の判定が出たところで、治癒師たちが慌てて駆けつけてくる。

 子爵も心配そうに治癒師たちの様子を眺めている。



(斜め上に撃ち込んだから、それほどケガはしていないはず。自慢の髪の毛は少し焦げたかもしれないけど)



 治癒師たちはかなり乱暴に彼の胸甲を外し、治癒魔法を掛けようとするが、中の様子を見て、顔を見合わせている。



「子爵閣下に申し上げます。グリュンタール殿は無傷。中の衣服も焦げておりません」



「試合の続行は?」



「可能と判断いたします」



「タカヤマ。魔力を使った後だ。休憩が必要であれば申告せよ」



「不要にございます。陛下をお待たせするのは心苦しく思いますので、速やかな続行を望みます」



「グリュンタール。胸甲は損傷しておらんか。取替が必要なら準備せよ」



 グリュンタールは虚ろな目で子爵と俺を交互に見ている。



 俺はこれ以上敵を作りたくないので、助け舟を出しておく。



「閣下に申し上げます。グリュンタール殿に胸甲交換のお時間を」



 子爵は軽く頷くと、貴賓席に向かって一礼し、状況を報告する。



 それを聞くと、レバークーゼン侯爵が護衛の騎士に小声で指示を出している。



 呆けたように立ち尽くすグリュンタールに



「グリュンタール殿、控え室で胸甲を着けてきてはいかがですか」



と声をかけ、近くにいる近衛騎士を手招きし、グリュンタールを下げさせる。



(これで俺が拷問に掛けられることはないな。三本目も楽に勝たせてもらいたいんだが)



 観覧席の端のほうを見ると、アマリーが青い顔でこちらを見ているが、俺が笑いかけると、無理やり笑顔を作り、返してくれた。

 シルヴィアは相変わらず無表情なまま。それどころか目を合わせようともしない。



(シルヴィアの気に触ることをしたかな? もしかしたら魔法の才能のことを気にしていたから、人間の俺が属性魔法も治癒魔法も使えることが気に入らないのかな?)



 胸甲を取り替えたグリュンタールが五分ほどで戻ってきた。

 まだ、動揺が収まっていないのか、目は虚ろなままだが、先ほどよりは落ち着きを取り戻している。



 子爵が三本目の試合方法を国王に確認している。



「三本目について、陛下のご意向は」



「うむ。魔法を使わせては面白くないの。クロイツタール公、レバークーゼン侯、そちらはどう思う?」



「「御意のままに」」



 公爵らは声を揃えて、国王の考えに同意する。



「三本目は魔法なしじゃ。タカヤマよ、よいな」



 俺は片膝をつき、「御意!」と返事をする。



(リアルで、初めて”御意”って使ったよ!)



 俺は余裕が出てきたため、変なテンションになっていたが、グローセンシュタイン子爵の”構え!”の合図で一気に冷静さを取り戻す。



(まだ、一本目のようには動けないはず。強撃の剣風で脅かせば、更に動きは弱まるはずだ)



 子爵の”始め!”の合図を待つ。

 錬兵場は一瞬、音がすべてなくなり、静寂に包まれる。



「始め!」



 唐突に開始の合図がされたように感じるほど、静まり返っていた闘技場で俺とグリュンタールは同時に、そして一気に距離を詰める。



 思ったより冷静さを取り戻しているグリュンタールを見て、モーションが大きい強撃を捨てて、突き主体の攻撃に切り替える。



 相手も両手剣で突き主体で来るとは思っていなかったのだろう、間合いを計りかねているように踏み込みが浅い。



 あまり長引かせると更に冷静になってくると予想し、相手の腕を狙った突きを放った後、大振りの強撃のモーションに入る。

 グリュンタールも狙っていたのだろう。強撃のモーションに入った瞬間、鋭い踏み込みで突きを放ってきた。



(掛かった!)



 今回の強撃はブラフ。モーションだけで重心移動は最小限にしている。



 一本目ほどの鋭さはないが、それでも十分速い突きが俺の胸目掛けて繰り出されてくる。

 俺はタイミングを合わせ、細剣(レイピア)を狙って剣を振り下ろす。



 ”キーン!”という金属音が闘技場に響き渡った後、”ザクッ!”という音が俺の横で聞こえてきた。



 グリュンタールのレイピアが折れ、闘技場の地面に突き刺さっていた。



 一瞬の間の後、グローセンシュタイン子爵の声が響き渡る。



「三本目の勝者! タカヤマ!」



 国王が立ち上がり、手を叩いている。公爵たちも国王に倣い、拍手を始めている。



(こういう時、どうしたらいいんだろう?)



 何となく映画のシーンを思い出し、剣を後ろ手に持ち、片膝をついて頭を下げておく。



(こうしておけば何となく様になっていると思うんだが……)



 国王より、



「タカヤマよ。そなたの戦い、見事。クロイツタール公の補佐を頼むぞ。何か申すことはあるか」



(ふぅ、何とか終わった。後はフォローかな)



「ありがたきお言葉にございます」



 更に頭を下げてから、国王に向き直り、



「しかしながら、グリュンタール殿は、初めて私のような魔法を操る剣士と対戦したと聞き及びます。本日の私の勝利は僥倖によって得られたもの。陛下の盾たる近衛騎士への評価、決してお下げになりませぬよう、心よりお願い申し上げます」



「うむ。相手への心遣い天晴れである。レバークーゼン侯、近衛騎士も見習うべきではないかな」



 そう言って、小姓らを引き連れ、錬兵場を後にする。

 レバークーゼン侯爵も国王に続いて出て行く。



(最後の一言は余分だよ)



 俺はグローセンシュタイン子爵に礼を言った後、膝を着いているグリュンタールに



「グリュンタール殿、陛下にも申し上げた通り、此度の私の勝利は僥倖によるもの。気を落とされぬよう」



 そういってから、公爵の下に向かう。



 公爵はここに入ってきた時の厳しい表情から一転して、満面の笑顔になっている。



「それでは、儂の執務室に向かうぞ。そこで今回の作戦、洗い浚い話してもらう。ふっはっはっ!」



 豪快に笑いながら、俺の肩を叩いてくる。



(やれやれだ。まだ早い時間だし、昼からはアマリーを連れて散歩にでもいけるかな?)







 アマリーは試合開始直後、無理に連れてきてもらったことを後悔していた。

 相手の騎士が強そうに見え、大河が勝てるとはどうしても思えなかったからだ。



(相手の騎士様は笑っていらっしゃるわ。ああ、腕から血が出ている……見ていられない)



 アマリーは見ていることができず、第一戦目の途中から下を向き、手で目を覆ってしまった。



(ここで負けると、タイガさんは拷問された後に処刑されるって言っていたわ。もう駄目……)



 アマリーの指の間から涙がこぼれ始めるが、周囲の歓声を聞いて顔を上げる。

 大河が咽喉を押さえて跪いているが、相手の騎士は肩を押さえながら転げ回っている。



(どちらが勝ったの? タイガさんが勝ったの?)



 アマリーはシルヴィアに勝敗を確認するが、



「見た感じは相打ちで引き分けなんだが……」



 大河が転げ回っている相手に近づき、治癒魔法を掛けている。その姿に



(タイガさんって、負けたら自分が殺されるかもしれないのに、相手の方の治療までするんだ。本当に立派な人……)



 彼女は大河のことを眩しく見ていた。







 シルヴィアは大河の行動が理解できないでいた。

 一本目の勝利を譲ったこと、相手を高位の治癒魔法で治療したこと、どちらも理由が判らないでいた。



(なぜ、そうする理由がある。自分の命が惜しくないのか。アマリーは心配のあまり失神しそうなのだぞ)



 二本目が終わり、自分たちに笑顔を見せた時、その感情が爆発した。



(何を笑っている! まだ一勝一敗の五分でしかないんだぞ!)



 憮然とした顔を見せまいと目をそらしてしまう。



 その後、二勝一敗となり、事なきを得たが、多くの優れた才能を持つが、自らの命を軽視する大河に対し、嫉妬とも軽蔑ともつかない感情が心の中に渦巻いていた。



後書き


作者:狩坂 東風
投稿日:2013/01/12 16:59
更新日:2013/01/12 16:59
『ドライセン王国シリーズ:滔々と流れる大河のように(冒険者編)』の著作権は、すべて作者 狩坂 東風様に属します。

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