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作品ID:1783

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異界の口

小説の属性:一般小説 / 未選択 / 感想希望 / 初級者 / 年齢制限なし / 完結

前書き・紹介


一章 セイ 六

前の話 目次 次の話

 ホタルは寮母さんと仲がいい。
 理由は簡単。サボっているときに、彼女の手伝いをしているのだ。
 寮母さんは貴重な労働力と話し相手を失わないために、先生からホタルをかばっている。ホタルも決して告発されないので、寮母さんになついているのだ。
 立派な庭をかけぬけてノウゼンカズラ寮の食堂に入ると、お菓子のいいにおいがした。
 ひんやりとした、木造の食堂。
 ステンドグラスが入ってくる光を和らげ、熱い空気は高い天井に溜まる。それに、食堂の周りはアーチ状にくり抜かれた壁が続き、なかなかに開放的だ。
「ああ、セイ。寮母さんがおやつにサンドイッチを作ってくれるって。」
 三つある長机の、真ん中の列のはじっこで、ちょこんと座るホタルを寮母さんが立ったまま見下ろしていた。
 寮母さんはまだ若く、それでも自分がこの学園に入ったときから、ここの寮母だ。
「そういえば、寮母さんは今年の休暇はどう過ごすんです?」
 こちらを向いた彼女は、首を横にふる。
「残念なことに、寮母に休みはないんだよ。」
「そうなんですか?」
「ああ。夏休みの間、ずっとホタルとこの学園にカンヅメさ。」
 そういう割に口の端が上がっているところを見ると、毎年それなりに楽しいらしい。
「でもね、休暇中の学園ってのは面白いもんなんだよ。先生方はいなくなってしまうから、庭師と寮母しか残らない。だから、好き勝手にできるところが多々あるのさ。」
 案の定、寮母さんの口からすべり出てきたのは、そんな言葉だった。
「さて、ちょっと待っていなさい。まじめな学生諸君に差し入れを作ってきてやるからね。」
 ウインクをひとつ残して、少し太めの影がが奥へと消えていく。
 それを見送ると、自分はホタルの向かいに座った。ホタルは本を置いてきたのか、手ぶらでこっちを見る。
「セイ。今年はいつまで学校にいるの?」
 毎年される質問に、自分は詰まった。
 いつもだったら、あと何日、とか、何日には帰る、などということがすらりと言えるのだが、今年に限っては、なんと言っていいのかわからない。
 その気持ちがそのまま音になった。
「……わからない。」
 そう、わからない。
 向かい側のホタルは、首をかしげた。そのしぐさは、眼鏡教授とよく似ている。
「どうして?」
「帰ってくるな、と言われたからだ。」
 夏休みの前に、実家から来た手紙は質素なものだった。
『父が帰ってきます。お前は帰ってこないように』
 真っ白な便箋に、母はそれだけ書いて送ってよこした。
 意味はわかるでしょう? と。
 念を押す気持ちは、よくわかる。しかし、命令するくらいなら、今年はどこで過ごせとか、そういう指示も書いてほしかったものだ。
 ホタルは、きょとんとした目で聞いてくる。
「どうして?」
 なぜ帰ってはいけないか。
「今年は珍しく、父親が帰ってくるんだ。――勘当された身では、帰るわけにはいかないだろう?」
 きっぱりと言った自分に向けて、ホタルはおどろくでもなく、引くでもなく、ただ笑った。
「じゃあ、今年はセイと一緒にノウゼンカズラが見られるね。」
「ノウゼンカズラ? 寮なんぞ毎日見ているではないか。」
 しん、とした食堂の静けさが、一瞬だけ身に染みた。
 次の瞬間、奥のほうから盛大な笑い声と共に、寮母さんが出てきた。手には大皿を持っている。この短時間で作ったとは思えないサンドイッチが並んだ大皿を見るに、自分たちのお昼をちゃんと作って待っていてくれたらしい。
「清(きよし)君はノウゼンカズラを知らんのね?」
 そう言って、また笑う。
 そんなにバカ笑いをされると、こちらの居心地が悪い。
 ほおが火照るのを感じて目を伏せると、ホタルがひょい、と顔をのぞきこんできた。
「ノウゼンカズラって言うのはね、もともと花の名前なのさ。お盆のころになると、中庭の壁を染めるように咲くんだ。」
 なるほど、花か。
「そんなもの、興味がなかった。」
 正直に答えると、寮母さんがさらに笑いながら、大皿を自分たちの前に置いた。

後書き


作者:水沢妃
投稿日:2016/08/13 21:55
更新日:2016/08/13 21:55
『異界の口』の著作権は、すべて作者 水沢妃様に属します。

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