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作品ID:1796
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異界の口

小説の属性:一般小説 / 未選択 / 感想希望 / 初級者 / 年齢制限なし / 完結

前書き・紹介


二章 瑠璃 八

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 穂高は、鳥居のひとつに寄りかかって待っていた。
「兄さん。」
 ホタルが声をかけると、こちらに歩いてくる。わたしには一瞬だけ、その顔がムッとしてゆがんだように見えた。
「お帰り。」
「ただいま。」
 それきり、ホタルは何も言わなかった。きっと、言葉を発するのが怖いのだ。
 穂高も、何も言わなかった。黙って、手に持っていたホタルの鞄を返した。その代わりとでもいうように、ホタルは、わたしを首から外すと兄に差し出す。
「戻してあげてくれない?」
「彼女は、これが本来の姿だぞ。」
「瑠璃さんに戻してあげて。」
 ホタルは泣きそうな顔をしていた。
 ほどなくして、わたしは地面に立っていた。これがホタルの願いなのか、それとも穂高の差し金なのかはよくわからなかった。
 ホタルの鞄を持ってやって、わたしはすっかり暮れてしまった空を見上げた。そのとき、ぱっと夜空に花が開いた。遅れてどん、と音がする。
「花火だ……。」
 連続して、無数の花が咲いた。赤く細い花が咲いて、わたしはなぜかヒガンバナを思い出した。うす気味悪い。
 鞄を右手に持って、わたしはホタルに左手を差し出した。ホタルはそれを喜んでにぎり返して、二人でてくてく石段を降りた。ちょっと先に、穂高の気取った背中が見えている。
「瑠璃さん。兄さんの用事はもう終わったのかな。」
「よっぽどのことがない限り、もう終わりだろうな。」
 そんなことを話していたら、穂高が急に振り向いた。
「ホタル。仲良くなったのなら、それをやろうか?」
 腕組をした穂高はいけ好かない。
 わたしはただのネックレスではない。ちゃんとした人格を持った、精なる存在だ。簡単に売り飛ばさないでほしい。
 なにより、よくわからない不安な気持ちでいっぱいだった。
 ホタルはわたしを見上げて、少し考えてから穂高を見た。
「いらない。瑠璃さんは、ずっと兄さんの隣にいて。」
 そう言って、優しく笑う。どことなく穂高に似た笑み。
 わたしはどきりとした。
 わたしでも、穂高の隣に立てるのだろうか……。
 憂いを払うように、見下ろした先にホタルの笑顔があった。

 その夜、わたしは不思議な感覚に捕らわれ続けていた。
 わたしは長く生きてきた。この石ができるくらいには、長く。
 それなのに、どうしても、ホタルのほうがわたしよりも大人に見えるのだ。
 穂高よりも大人びて見えるのは、本人にはないしょ。

後書き


作者:水沢妃
投稿日:2016/08/13 22:31
更新日:2016/08/13 22:31
『異界の口』の著作権は、すべて作者 水沢妃様に属します。

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