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作品ID:262
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てがみ屋と水を運ぶ村

小説の属性:一般小説 / 未選択 / 感想希望 / 初級者 / 年齢制限なし / 連載中

前書き・紹介


第三話(再編集版)

前の話 目次 次の話

 二人は地図で場所を確認しながら大きな石を飛び越え、倒れた家屋をどけ、こぢんまりとしたわらの家(家と呼べるものかどうかは疑問だが)に辿り着いた。

「すいませーん、楠木《くすのき》さんのお宅ですか」

 ソラが声を張り上げると、がっちりとした男の人が出てきた。

 息を呑んだ。

 真行があまり背が高いほうではないこともあるが、彼と比べると縦が頭二つ分くらいの差がある。最近は食糧がなく栄養が摂れないので、あまり体が大きな人はいない。

「どうぞ」

 仏頂面で封筒を差し出す真行。普通はこれだけ威圧感のある人が出てきたら退くところだが、彼はまったく動揺しない。

「す、すみません。失礼しました」

 ソラは真行を横に張り倒し、手紙を手からもぎ取って、男に差し出す。

 深々と腰から頭を下げて、様子を窺いながらゆっくり顔を上げた。

「どうも」

 日に焼けた顔に白い歯が際立つ、笑顔が素敵な人だ。その笑顔にソラのこわばった顔がほぐれた。

「お前たちが噂の戦う郵便局員、『てがみ屋』さんか。お嬢ちゃんはそんなに小さくてかわいらしいのに、それで戦うっていうんだからすごいもんだな」

 いつも言われる言葉。ただ、ソラはその言葉を素直に喜べない。

「あのう、あたしは戦わないんですけど……」

 苦笑しながら言葉を返すと、男は少し困った顔になる。

「そうか。そうだろうな、女の子だもんな」

 そしてこれもいつも言われる言葉。彼女は営業用の笑顔で、さらりとその言葉を流した。しかし、ソラはこの言葉が好きではなかった。なんだか「女」であることが戦えないことの言い訳みたいで、「役立たず」「根性なし」の焼印を胸に押し当てられたような気分になる。

 そんなことは気にもかけず、自分の言葉をフォローできたと安心した男は封を切って、嬉しそうに中身を取り出した。手紙など、来たことがある人のほうが珍しい時代だ。ニコニコするのは当然といえる。

「どれどれ……」

 彼のごつごつした指が手紙を丁寧に開いた。彼は文面に視線を落とす。

「これか……」

 次の瞬間、予想外のことが起こった。

 片方の手に手紙を叩きつけるようにして折りたたんだ彼は、こちらを見下ろし、口の端を大きく吊り上げて、にんまりと笑ったのだ。

 そして、受け取った手紙をまるでごみを捨てるかのように、後方に放った。

「な、なんてこと……」

「まったくこんな幸運なことがあるとはな……人生捨てたもんじゃないな」

 真行が眉根を寄せて、男をにらみつけた。

「何わけ分かんねえこと言ってんだよ」

 ソラも訝しげに男を見上げる。

 そのときだった。男の後ろに黒い影が見えたのは。

「これで、俺もようやく食いもんが食えるってわけだ。なあ、政府のお役人さんよ」

 奥から出てきたのは漆黒のシャツとズボンを身につけ、それと対象的な純白のネクタイを締めた二人の男たちだった。

「政府の……っ」

 ソラは思わず拳を硬く握り締めた。政府の制服ははじめて見たが、話は聞いていたのですぐに分かった。

「ご協力には感謝します」

 一人の役人が冷たい視線を楠木に投げる。そこには感謝というものは微塵も感じられなかった。

「しかし、我々にも事情というものがありまして。お約束したとおりのことは出来かねます」

 もう一人が突き放すように冷たく言い放つ。

「んだと……せっかく協力してやったっつうのに!」

 楠木は激昂して拳を振り下ろそうとしたが、それは敵わなかった。

 振り上げられ、叩き込まれそうになった拳を、役人はやわらかく受け止めて流した。そして楠木の大きな体を支える足に、自分の足をかけ、まるで草を刈るかのように楠木の足を刈った。

「うぐッ」

 楠木は前に倒れ、顎を地面に強打した。

「黙ってくださると助かるのですが」

 敬語になっていない言葉を感情のこもらない声で口にし、役人は楠木の背中に靴底をぐりぐりとねじ込む。

 ソラは一瞬絶句したが、すぐに我に返って役人に訊ねる。

「なんなの? 手紙を配ることがいけないわけ?」

「別にそういうわけではありませんが。てがみ屋が配る手紙に興味もありませんし。ただ今回の手紙と」

 一人の役人は腰元のナイフの柄に手をかけ、もう一人は胸の前に拳をあげる。

「情報を返していただきたい。あなた方の局長が奪っていった我々の大事な宝を」

 だいじな宝? 何のこと?

 うちの局長が何か政府にしたの?



 真行の腰がぐっと低くなった。

「死にますか。あなた方も」

 も――?

 ということは殺されたメンバーもいるのか。

 すくんでしまったソラに真行が目配せした。

「どうすんの?」

 手紙を奪い返すか、逃げるか、訊いているのだろう。相手は二人だ。本来ならソラが戦わないといけないはずなのに、真行は相手が二人でも奪い返すつもりでいるのか。

 逃げる――そう返そうとした。でも手紙が。

 言いかけたとき、真行は小さく笑ってみせた。

「迷うなら奪い返すぞ。お前は人の心配すんなよ。こんなときばっか」

 全部読まれていた。すごく悔しくて、情けない。

 自分ももっと強ければ。

 いつも思って、いつも結局何もできない。

 ソラは鞄を抱きしめて後ろに下がった。

 役人の一人がにたりとほくそ笑んだ。真行一人で自分たちから手紙を奪い返せるわけがないと思ったのだろう。ソラは二十メートルほど彼らから離れたところから真行を見守ることにした。

「お前ら、何勝手に人のもの取ってんだよ? 窃盗罪で訴えるぞ」

 真行が一言からかうように言ってみると、役人はその言葉を鼻で笑った。

「この手紙も、貴方たちがもつ我々の情報も、もともと私たちのものですからして返していただかなければ。とくに情報のほうは。あなた方の局長の趣味のために盗られていいほど軽いものじゃない」

 局長の趣味。役人はそう言った。ソラはその一言でぴんと来た。局長がやりそうなことなら分かる。あの人は大の情報好きで、「人が知らないことを知っているのはすばらしいことだ!」とか言うのはしょっちゅうだ。手紙を配る先々で、どうでもいいことを聞いてきて、ソラたちに自慢することが度々あった。調子に乗ってくると局長は声がどんどん大きくなるので話を聞くソラたちにしてみれば、話を聞く時間は苦痛でしかなかった。一応上司だから耳をふさぐわけにはいかないし。鼓膜が破れそうになるほどの大音量でまくし立てるものだから、耳が痛くて仕方ない。

 だが、たいていはどうでもいい情報、というよりも雑学やトリビアで「あーはい、そーなんですか」で終わってしまうようなものだったはずだが。

 今回は変な情報を拾ってしまったらしい。それもソラたちが持っている。つまり局長が預けたと。

「あ」

 ソラは自分が抱いている鞄を見下ろした。

 まさか。

『すまん、ちょっと預かっておいてくれ。オレだけじゃ管理できなくなった』

 そう言っていた筈だ。

 確か、中は紙だったはず。その紙に何か大事な情報がたくさん書かれているのかもしれない。

 もしかして、政府が狙っているのはこれか。

「なんで俺たちが局長のへまの尻拭いしなきゃなんねえんだよ」

 真行も気づいたらしく、大きくため息をついた。

「でも、大事なもんなら渡すわけにはいかねえ。それに手紙は返してもらう」

 真行が地面を強く蹴って駆け出した。ナイフの柄に手をかけた役人の懐に一瞬でもぐりこみ、思いっきり当て身をした。

「このっ」

 役人の手はナイフの柄の上にあった。バランスを崩しつつも、抜こうとしたナイフを真行は手刀で地面に叩き落とし、踏み込んだ足を軸にして、反対の右足でナイフ遠くへ蹴り飛ばした。

 しかし、その次の瞬間にはもう一人の素手の役人が真行の目前に迫っていた。

「役人を舐めるな」

 もう一人の役人は素手で戦うだけあって、身体能力に自信があるらしい。確かにその動きは速かった。

 鋭い拳を真行に叩きつける。真行はひたすら受け流すしかない。

 そして、後ろの役人もバランスを取り戻してしまった。

 挟まれた――そう思った瞬間、後ろから脇に手が回され、上半身ががっちり固められた。

「くそッ……!」

 真行は奥歯をかみ締めて、前の役人の拳打を一発、甘んじて受けた。

 腹部に強烈な痛みが走ったが、耐える。肩を固められている腕を力ずくで一気に引き剥がす。

「役人舐めんなよって……俺も元役人なんだけど?」

 前の役人の一蹴を体を地面にぐっと引き寄せて避けた。

 手紙は?

 目で追って手紙の位置を確認する。

 手紙を持っているのは前の役人だった。

 足を蹴り上げた反動で、ポケットから手紙の端がはみ出ていたのだ。

「何ふざけたこと言って……がッ」

 後ろの役人の足の甲を踏み潰して跳躍。

 その勢いで前の役人に一気に迫り、手紙をポケットから抜いた。

「しまっ……」

 役人が振り向いたがもう遅い。

 真行は勢いを殺さずにそのまま役人の横を駆けぬける。

「ソラッ!」

 ぼうっとしていたソラは真行の一喝でわれに返った。

「うんっ」

 ソラは頷いてから、慌てて走り出した。

 ファミリアバードまで逃げ切ることができれば、後は何とかなる。

 一本しかない道を、必死に駆けた。

 後ろからは、黒服の男たちが追ってくる。

 ソラは足を必死に動かす。訓練されている政府の役人とは違い、ソラは普通の女の子でしかない。追いつかれそうで、迫ってくる男たちが怖い。

 真行が隣に追いついた。隣を少し見て、前に視線を戻すと、ファミリアバードが見えてきていた。

「急げ!」

 真行がソラの腰を押して、自分も加速した。

 ソラは何とかファミリアバードに飛び乗って、手綱を握り、

「スナっ」

 何とか口にすると、全体重をファミリアバードに預けた。

 ファミリアバードが走り出す。黒服の男たちはだんだん小さくなっていき、やがて見えなくなった。

「セーフ……」

 ソラはファミリアバードに倒れこみ、うう、と呻った。

「疲れた……」







後書き


作者:赤坂南
投稿日:2010/08/01 22:00
更新日:2010/11/07 21:47
『てがみ屋と水を運ぶ村』の著作権は、すべて作者 赤坂南様に属します。

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