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作品ID:609

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ふしじろ もひと ■パインサラダ 


悲しい現実

小説の属性:一般小説 / 未選択 / 感想希望 / 初級者 / 年齢制限なし / 連載中

前書き・紹介


…信じるもんか

前の話 目次



 煉は、目の前にある学校を見て、止まっていた。



(また…戻ってきたの?)



 実感があまりない。今まで家で引きこもり、感情そのものに疲れていた自分が何故ここにいるのか。



「煉、どうしたの?」



 母が怪訝そうな顔で煉を見つめた。



「お母さん…。やっぱり私、帰っていい?」



「なっ…」



 何も感じさせない無表情で、母の顔を見ずに彼女は呟く。



「ここでも、また皆に避けられる…」



「何言ってるの!今から行く場所にはあなたと同じような人しかいないのよ?」



「同じ…?」



 何が同じなのか、彼女にはさっぱり理解できない。そもそも彼女は自分がクラスの皆と何が違うのすら理解していない。



「同じって、何が?」



「何がって、そんなの」



「私の頭がおかしいこと?そこにいる人達も皆頭がおかしいの?」



 母の台詞を無視し、彼女は続けた。



「私って、おかしいんでしょ?皆言ってたよ。考えも、行動も、何もかも異常だって」



「…」



 母が絶句にしたことに彼女は気付かず更に続ける。



「私は、普通にしてるけど、皆が言うんだ。頭おかしい、障害者って」



 何時しか、彼女の瞳には光るものが浮かび上がっていた。



「何がいけないの?何がおかしいの?何が普通なの?何が異常なの?何にもわかんないよ…」



 彼女自身は、何が起こってるのかまったく分かっていない。ただ、溢れる何かに任せて。



 聞けなかった。分からなかった。



「教えてお母さん。何が普通で、何が異常で、何が間違ってて、何が正しいのか……教えてよお母さん!!ねえ!!」



「…」



 母を見る彼女の顔は、涙でぐしょぐしょになっていた。



 母はそんな娘を見て、辛そうに顔を歪ませる事しか出来なかった。



「お母さんにも、分かんないの?」



「……そうね。それをこれから見つけていかなきゃいけないのよ」



 母はそう答えるしか出来なかった。



 そして同時に痛感した。



 自分が娘に出来ることは、これくらいしかないと。



「ほら、涙拭いて。新しい担任の先生に挨拶しに行くわよ」



「…」



 黙って涙を拭い、黙って歩き出した。



 彼女は絶望していた。



 母なら答えを知っている。ずっとそう思っていたのだから。



















「はじめまして、だね。君が新しく入るんだね」



 初めてみる先生。



 彼女が知らない先生だった。



 顔すら見たことがない。



「…」



 黙ってその顔を見つめる。



「俺は担任の緒方良平(おがたりょうへい)。二人目の担任になるね」



 二人目?



 一瞬そう思ったが、元のクラスの担任に続く教師だと少女は理解した。



「それで、君は…二年三組の」



「……………」



 答えるつもりなんて最初からない。



 少女にとって彼は、『信用出来ない敵』と認識されているからだ。



 彼女の引き篭もっていた時間の所為で、彼女の心はすっかり殻に覆われていた。



 誰も信じない。信じたくない。



 人間不信になり、信じられるものは何もない。



 無論、自分も。



「まあ警戒するなよ。確か、岡本煉(おかもとれん)さんだったよね?」



「だったら何?」



 普段なら絶対にしない敵意丸出しの声でそう返した。



「煉!」



 母に嗜まれてもその敵意は治まらない。



「だからそんなに警戒しなくても避けたりしないから」



 苦笑いする担任に、少女は憤りを感じていた。



 何故か、馬鹿にされてる、見下されてる感じがしたからだ。



 こいつも敵だ、絶対に信じるものか。



 心に固く誓った。



「すみません、娘が」



「いいんですよ。心を閉ざしがちなのは、よくありますから」



 謝罪する母を、担任は笑顔で許した。



 それから二人は、予定や日程などを話した。詳しいことは、実際経験したら、という方向で決まった。



「それじゃ岡本さん。教室に行こうか」



「お母さん…一緒に来てくれるよね?」



 担任を無視し、母に駆け寄る煉。



「ごめんね煉。お母さん、先に帰るから」



「そんな!」



 てっきり一緒に来てくれるものとばかり思っていた少女は、すっかり動揺していた。



「やだよお母さん!一緒に行ってよ!」



 駄々をする子供のように母に縋りつく。



「煉…わがまま言わないで。ね?」



「やだ!やだよ!何で!?何でなの!?」



「そういうことに決まったから。まずは経験から、ね?」



「やだ!」



 しばらく、煉と母は揉めた。



 結局、煉が折れて担任と一緒に行くことになった。



「……」



 煉はこのせいですっかり不機嫌になってしまった。



「はぁ…すいません何度も何度も」



「いいんですよ。気になさらないで下さい」



何度も謝罪する母をなんでもないかのように許す担任。



 本当に懐の大きい人である。



 煉はこの担任が嘗て無い偽善者に見えてきた。



「それじゃ、行こうか」



「…」



 その言葉を無視し、先に部屋を出て、廊下で溜め息をついた。



(どうせ…また二の舞に決まってる)



 最初から結果は見えている。期待するだけ無駄。



 彼女は最初から諦めていた。



 自分は障害者、どうせ何も出来ない。



 何もかも、無意味に見えて不意に悲しくなった。



 (どうせ…)



 待ってる間、そればかり考えていた。

後書き


作者:如月天
投稿日:2011/02/12 13:03
更新日:2011/02/12 16:19
『悲しい現実』の著作権は、すべて作者 如月天様に属します。

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