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ローバス戦記

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前書き・紹介


第十七話 粛々と

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 オルガ荒野の勝利により、アリシアの声望は一気に高まった。

 特に、ローバス東部の諸侯に対しては絶大な効果があった。揃ってアフワーズ城に参上し、口々に忠誠を誓う言葉を述べた。

 しかし、アリシアは素直には諸侯の言葉に頷きはしなかった。

「貴方達は口を揃えて私に忠誠の誓いを述べていますが、私達がカーン・ラー、トーラスと命懸けで戦っている時、貴方達は何処にいましたか?」

 アリシアの言葉に、諸侯は言葉に詰まった。自分達に後ろめたい部分があるから余計に感じる。後ろめたい部分というのは、アリシアの後見役になる事。もしくは、自分が、または自分達の息子をアリシアに気に入らせ、アリシアの夫、もしくは義理の父になるという目論見である。アリシアが新国王と正式に決まれば、新国王の親族、または後見役として絶大な権力を専有できるからである。

 だが、カーン・ラー、トーラス侵攻軍に対して高みの見物をしていたツケが、ここで回ってきたのである。

 アリシアの怒りは理解できる。

 寡兵でのギリギリの戦いを強いられ、勝利を収めたものの、多数の将兵が犠牲となった。

 もし、諸侯が最初から参集し、軍団を編成すれば、もっと違う戦い方が出来たはずである。

 しかし、このまま諸侯を追い出す事はできない。彼らが保有する兵力は王都奪還の為には必要不可欠な存在だからだ。

 この問題を解決すべく、シャルスはアリシアへの忠誠と兵、軍事物資を提供するという誓約書を出させるという形で決着させた。

 諸侯にとって、このような形にさせたシャルスは、目の上のたんこぶ以上の存在になったであろう。が、シャルスにしてみれば、野良犬が吼えているのを止めさせてもキリが無い。と言った所だろう。勿論、実力行使で排除しようものなら叩き潰すだけだ。どのような策謀を仕掛けてこようと、逆手にとり、恐るべき深慮遠謀を骨身に染みるまで味合わせる。

 シャルス自身、諸侯の忠誠など期待していない。所詮、アリシアの声望という蜜に集って来た蠅も同然の連中だ。排除しても良いが、それはまだ時期では無いだろう。差し当たり必要なのは彼らの協力では無く、彼らが所持している兵と軍事物資だ。

 そんなシャルスであったが、城内で面白い人物と出会った。

 まだ二十歳になったばかりの青年で、ロウ=クリンという、アフワーズ城住み込みの庭師だ。

 青年が仕事をサボって本を読んでいたのをシャルスが見つけ、暇潰しに今後の戦略について尋ねたら、思いがけない献策を提示したのである。さらに、シャルスに対して様々な意見を述べ、シャルスを感心させた。

 シャルスはこのロウという青年を気に入り、ほぼ強引というよりも、拉致に近い形でアリシアに会わせた。

「殿下にご報告申し上げます。この者、ロウ=クリンという城内住み込みの庭師でございますが、まったく仕事をしないので、解雇する旨、進言致します」

「……あ、ああ。そう……なの?」

 アリシアはまるで、豆鉄砲を撃たれた鳩のような顔でシャルスの言葉に耳を傾けた。

「……シャルスに任せます」

 どう、処理していいか分からず、アリシアはシャルスに委ねた。

「あ、ああ、あの…! ぐ、軍師様! ご、ごめんなさい! もう、仕事をサボったりしませんから! ど、どうか解雇だけは!」

 ロウが慌てふためいてシャルスの服の裾を掴んだ。

「ほう、では、どのような仕事でもするか?」

「は、はい! も、勿論です! お茶汲みでも、雑草狩りでも、雑巾掛けでも、なんでもします!」

 その言葉にシャルスは悪戯小僧のような笑みを浮かべた。

「では、ロウ=クリン。お前を副軍師に推薦する」

「は、はい。副軍師ですね! …………………………え?」

 石のように固まるとは、このような状態を指すのだろうか? ロウは指一本動かさず、脂汗を流し始めた。

 シャルス優雅にアリシアに一礼した。

「殿下。この者。実に得難い資質を備えています。副軍師として、参謀として、存分にその才略を発揮してくれるでしょう。是非、採用して頂ける様、お願い申し上げます」

「…………シャルスがそこまで言うのなら、有能な人物なのですね?」

「はい、剣しか使えない黒と赤の馬鹿よりは百倍使えます」

 黒と赤の馬鹿とは、勿論グリュードとホルスである。

「では、シャルスの推挙です。貴方を副軍師に任命致します。私に智恵を貸してください」

「…………え、ええ!? ぼ、僕は、い、いえ、私は平民ですよ!?」

「だからどうした? 私の目が曇っている。君は私にそう言いたいのだな?」

「い、いいえ」

「ならば、しっかりとやれ」

「は、はい…………」

 ロウは怯えながらもアリシアに平伏した。

 後、ローバス十二名将の一人として数えられ、シャルスと共に智恵の双璧と讃えられるロウの仕官だった。

 また、アリシアにとって喜ばしい事件が起きた。

 ローバス十将軍。

かつてローバス王国をレン大将軍と共に守り、様々な外敵を撃ち払った名将達である。

 しかし、そのローバス十将軍も、ハイム戦役でカルドロ、リーバイラ、パストーンは戦死。エッカは行方不明。恐らく死んでいる事だろう。ウォーマンは国王への忠義を貫き通して獄中で自害。これについてアリシア達は知らない。ガドウェンはレンの説得により、ガーグの配下になり、ベルドバもガーグの配下となっている。そして、フィルガリア、グリュードはアリシアの配下となっている。残る一人、ハルドー=ヴァラハンは、ハイムでの一戦が始まる前、絹の国へ外交使節として旅立っていた。

そのハルドーが本国の急変を聞き、戻って来たのである。戦友の帰還を聞き、グリュード、フィルガリアもすぐさまアリシアの元へ参じた。

「殿下、ご無事でなによりです。ハルドー、帰還致しました」

 グリュードや、フィルガリアより一回りも大きい、たくましい体つきをした男はアリシアに一礼した。

「ハルドー。よく戻ったな」

 フィルガリアは同じ歳で、同期の戦友の肩を叩いた。

「フィルガリアも、グリュードも壮健で何よりだ。…………絹の国からの帰り道で旅商人からハイムでの敗北を聞いた。ローバスはどうなっている?  アフワーズに来る前に少し状況を聞いたが、詳しく説明を頼む」

 ハルドーの聞きたい事は山のようにあった。旅の帰りにハイムで常勝無敗と信じていたローバスの軍団が大敗北に喫し、国が二つに別れ、さらに、カーン・ラー、トーラスが大軍勢を率いて侵攻。それを、僅か十六歳のアリシアが打ち破った。など、聞いても信じられるような話ではなかった。

 だが、フィルガリアから一つ、一つ、ゆっくりと話を聞き、ハルドーは蒼白となった。

 ハイムにおける、共に何度も死地を潜り抜けた戦友の戦死。ガーグ宰相の王位簒奪。国王の死。アリシアの決起と、オルガ荒野での戦い。

ハルドーは信じたくない、という気持ちはあったが、彼は現実主義者であった。事実は冷静に受け止める覚悟をここに来るまでに済ませていた。

「…………そうか、そんな事があったのか」

 ハルドーは大きく息を吐くと、アリシアを見つめた。

「殿下、私を殿下の家臣団の末席にお加え下さい。私は武勇を誇る事しか出来ず、主君を守ることすら出来なかった愚かな男です。今一度、微力な私に主君を守る機会をお与え下さい」

「ハルドー将軍。貴方を歓迎いたします。ローバス十将軍で一、二を争うその武勇を私に貸してください」

 アリシアの言葉に、ハルドーはただ、静かに一礼した。

 この時、ハルドーは二十九歳であった。



 そして、もう一つ。今度は“ホルス将軍”がセルゲイ千騎長、セト千騎長、クリス千騎長の三名と共に、アリシアの元へ参上した。

 ホルスはオルガ荒野の戦いでカーン・ラー国王ドムと、猛将ベルドを討ち取った功績により、将軍の地位に就任した。本人は当初、「柄じゃ無い」と言って断り続けたが、グリュードとシャルスは熱心な説得と、基本給与の上昇を餌に、ホルスに将軍就任を承諾させていた。ホルスの昇進に伴い、セルゲイ、セト、クリスも昇進を果たした。無論、カーン・ラー戦で戦死したウェインも千騎長に昇進した。遺族が居なかったウェインの葬儀は紅蓮騎士団五千名により盛大に執り行われた。

 ホルス以下、四名は礼儀正しくアリシアに一礼すると、背後にいた二名をアリシアの前に立たせた。

「アリシア様、この者を家臣団に加える事を奏上致します」

 ホルスが推挙したのは、一人は厳しい目つきの女性で、一人は異国の片刃剣で「刀」と呼ばれる武器を背負う青年だった。

「元トーラス将軍、ローバス侵攻軍副司令官。エレナ=リュンベルトと申します。こちらは私の元部下で、ラオ=チェインと言います」

 思わぬ人物に、アリシアは驚きを隠せなかった。ローバスに鞍替えするにしても、しかし、なぜホルスを頼ったのか?

「既にトーラスに置く場所は無く、ラオがホルス将軍の知己という偶然を得て、この場へ参上致しました」

 その場に偶然居合わせたシャルスは、ホルスを見つめた。

「事実だ。ラオとは、王都潜入の際、手助けしてもらった」

 ホルスの言葉により、エレナの言葉が信頼に値すると判断したのか、シャルスは笑みを浮かべた。

「アリシア様、この者。信用して宜しいかと存じます。是非、我が陣営でその力量を存分に発揮してくださる事でしょう」

 シャルスの進言により、アリシアはエレナとラオの登用を承認した。

 エレナは将軍職として登用するに問題が無かったが、ラオはその実力が未知数だった。

「ラオの実力は俺とほぼ互角ですよ」

 ホルスは冷えた笑みで言った。

「……待て、私は一言もローバスに仕えるとは言っていないぞ」

 ラオはゆっくりと刀と呼ばれる片刃剣を手にし、剣先をホルスへ向けた。

 突然の出来事に、周囲の兵達は一斉にラオに槍先を向け、数人がアリシアの前に立ち、壁となった。さらにその前でティアが剣を構えた。

「私の目的は二つ。一つはエレナ殿をアリシア皇女へ引き合わせること。もう一つは……」

「俺と決着をつけたい……か?」

 ホルスはゆっくり鞘から剣を抜いた。その顔は戦場で見せる獣の笑みとは、また別。一人の剣士として、油断ならぬ強敵と戦う緊張に満ちた顔だった。

 両者、剣を互いに向けたままゆっくりと、間合いを詰めた。そして、お互いの距離が五歩まで近づいた時、二人は動きを止めた。

 一瞬だった。

 二人の剣は空中で交差し、火花を散らす。ホルスは勢いそのままに回転し、遠心力を混ぜた一撃を放った。だが、ラオは地面に剣を突き立てて、それを受け、そのまま剣を切り上げた。ホルスは上半身を逸らして一撃を避け、左片手で一撃、右手に短剣を握って頚動脈を狙った。ラオは首を捻って必殺の一撃を避けると、切り上げた剣を縦に捻り、切り落としに変化させた。

ホルスが短剣を使うのは滅多に無い。使う所を見たことがあるのはグリュードだけだ。見たことがあるのは…である。ホルスが長剣と短剣を持つ姿を見て、生きているのはグリュードだけだからだ。それは、ホルスが本気である証拠だ。ホルスは基本的に長剣のみ使う。だが、ホルスの真骨頂は、長剣と短剣を織り交ぜた変幻自在の攻撃にある。だが、重い剣を片手で、自由自在に使い分けるなど、どれほどの鍛錬を積めば出来るのか? しかも、ホルスは左手で長剣を振るい、右手で短剣を振るった。ホルスは右利きである。それは、右でも、左でも、同等の威力を有する事を意味する。

だが、ラオの刀も常識外れと言うべきだった。途中、彼は切り上げた刀を縦に捻り、切り落としに変化させた。剣筋の軌道を途中で変える。それも威力も速さもまったく変えずに。まず、普通の人間には不可能だ。驚くべき身体能力と、柔軟な筋肉が要求される技だからだ。

 ホルスは右手に長剣、左手に短剣を持ち替え、右手を上段に、左手を水平に、剣先をラオに向けた。

 二人は目にも留まらぬ速さで間合いを一気に詰めた。その先の攻防はまさに名勝負と呼ぶに相応しい。お互いが一歩も譲らず、剣の速さも、正確さも、重ささえも、完全に互角。何合打ち合っているのか、それすらも分からぬ。達人と呼ばれる実力がどの程度か分からないが、間違いなく、この二人がアリシア率いるローバスのみならず、この大陸で最強を冠する相応しい実力を持ち合わせている屈指の剣士だ。

 互いに紙一重で剣を避け、一撃必殺だけではない、フェイントも織り交ぜた、息をするのも忘れる戦いだった。

 二人の戦いに、その場にいた誰もが息を呑んだ。ただ一人を除いて。

 二人の三本の剣が交差し、鍔迫り合いとなった時、二人の剣に間に一本の剣が割って入った。

 ティアである。

「女、邪魔するな」

「ティア、下がれ!」

 二人はお互いの目を見つめ合いながら言った。一瞬でも目を逸らせば、勝負は終わるだろう。

「アリシア殿下の御前である。この場での私闘など許さん!」

 ティアの力強い言葉は二人の剣士に響いた。

「ああ、私闘だ。だから、どうした? 俺はこいつと闘いたい!」

「お前は強い、その強さ、俺が飲み込む!」

 二人は鍔迫り合いの状態から互いに間合いを開けると、それぞれ剣を構えた。

 ホルスは両手の剣を正面で交差し、剣先をラオに向ける。

 ラオは刀を腰の辺りで切っ先をホルスに向け、それを、そのまま頭上に持ち上げた。

 ラオがホルスを一刀両断するか。

ホルスが左の短剣でラオの剣を防ぎ、右の剣で斬るか。

二人の稀代の剣士はお互いの目を見つめ、「時」が訪れるのを待った。

「ホルス………」

 ティアの優しい声がホルスの左耳に囁くように聞こえた。

「言う事を聞け! この馬鹿が!」

 ティアの声が合図だった。二人の一瞬で間を詰めると、互いに渾身の一撃を放った。

『……………』

 ホルスの短剣が折れ、ラオの刀は確実にホルスの右頚動脈を捕らえていた。しかし、ホルスの長剣もラオ頚動脈を捕らえていた。

「引き分け・・・か」

 悔しさを滲ませるラオの声だった。

「さて、どうする?」

 ホルスは折れた短剣を捨て、長剣を鞘に納めた。ラオも刀を背中に背負う鞘に納めた。

「…………そうだな。少し、旅に疲れた。かと言って、誰にも忠誠を誓う気は無い。傭兵なら雇われてやる」

 女将エレナと、傭兵将軍の異名を持つ事となるラオの士官だった。







 アリシア皇女を助け、新王朝建国を成し遂げた十二名の名将達。

 後世、吟遊詩人達に「ローバス十二名将」と呼ばれる内、グリュード、シャルス、ホルス、ティア、グリュードに加え、ロウ、エレナ、ラオ、ハルドーの四人が集った。

 アリシアは王都奪還に向け、着々と兵力、武具、そして何より、優秀な人材を揃えつつあった。

 ローバス歴二四六年一月末。

 アリシア率いるローバス軍は王都奪還に向け、着々と軍備を整えつつあった。

後書き


作者:そえ
投稿日:2009/12/12 20:47
更新日:2009/12/12 20:52
『ローバス戦記』の著作権は、すべて作者 そえ様に属します。

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